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「………」
「最初は流仙騎の修行をしていたんだけど、とあるきっかけで呪術師にも興味を抱くようになったんだ。今じゃ二足のわらじさ」
「…流仙騎だけでも良かったんじゃないですか?」
「私も人間だからね。色々事情があるのさ。話してみて私は嫌な奴かい?君を呪い殺そうとした誰かさんと同じかい?」
「…一緒じゃありません。嫌な奴じゃありません」
「ありがとう。じゃあ降りてきて握手しようじゃないか。これから一年一緒にやっていくんだ。よろしく頼むよ」

飛鳥は心得たように笑い朔夜に向かって手を差し出した。しばらく間があったあと朔夜はそろそろと長机の山を降り始めた。どうやら説得に応じるらしい。過去に余程嫌な目に遇ったのかその足取りはまだ若干重い。靴を履いていない足は滑るのか非常に慎重に足場を確保しながら降りていた、が

「あぶない!」

とろとろと山を降りているとき、朔夜の体が宙に浮いた。余程運動神経がないのか。結構な高さから足を滑らせた。背中から床に向かって落ちていく。やばい、頭打つ。一瞬それだけが頭をよぎった。咄嗟に手を伸ばしたがもう体は水平に近くなっていた。空を掻く。

「片倉くん!」

飛鳥が叫ぶより早く片倉は動いていた。
床より遥かに柔らかい衝撃が朔夜の体に走った。体は宙に浮いたままだが、背中と膝の裏を何かが支えていた。落ちる直前に片倉が朔夜の体を横抱きに受け止めていた。見開いた目には人影が落ちる。片倉が険しい顔で朔夜の顔を覗き込んでいた。

「大丈夫!?」
「片倉くん、よくやった!」
「お主は馬鹿か」

零威と飛鳥が駆け寄ってきた。三人が硬直したままの朔夜の顔を覗き込む。ぼけっとした間抜け面が目に入った。零威は安堵したように息を吐いた。飛鳥は満足げに片倉の肩を叩く。

「…片倉さん」
「俺が居なかったら頭から落ちていたぞ」
「…ありがとうございます」
「礼などいい。大丈夫か?」
「…っ、片倉さん!」
「のわっ!?」

叫ぶや否や朔夜は片倉の首に抱きついた。片倉は驚いて身を引いた。同時に支えていた腕が朔夜の体を離れたが彼の腕はがっしりと片倉の首に巻き付き、落ちなかった。足が床につくと驚いて表情の無くなった三人を他所目に朔夜は目を輝かせながら片倉を仰いだ。

「師匠って呼んでいいですか!?」
「は?」
「師匠って呼ばせてください!」
「し、師匠?」
「飛鳥先輩いいですよね!」
「え?あ、ああ…?」
「ししょー!」
「うわっ、こ、こら」

飛鳥が今日初めて見せる困惑した表情で許諾を得る朔夜の顔を見返した。曖昧な返事を返すと朔夜は嬉しそうに叫んで片倉に抱きつくと胸板に顔を埋めた。片倉は何がどうなったのか理解できない様子でただひたすら焦っている。零威はぽかんとその光景を見つめている。

「命の恩人です、師匠!一生付いていきます!」
「そ、そんな大袈裟な…ちょ、落ち着け、一回離れて、ね?」

自分より幾ばくか背の低い朔夜の双肩に手を置き、引き剥がす。朔夜はきょとんとしている。片倉の顔は真っ赤だ。抱きつかれるなど生まれて死ぬまで、いや死んでからも一度も体験したことのない出来事だった。しかも師匠?などと訳のわからない事を言われて一瞬で片倉の頭はパンク寸前に追い込まれた。

「いかん、片倉くんは腕っぷしは強いがアホなんだ!」
「ど、どう対応したら…」
「ししょー!大丈夫ですかししょー!?」
「離れなさい」

片倉の頭が煙を吹く直前に零威が朔夜の頭をどついた。
朔夜が両手で頭を押さえた隙を狙って飛鳥が片倉を引き剥がした。片倉ははっと我にかえる。

「男同士で何くっついてんのよ、気持ち悪い」
「え!?俺別にそんなつもりじゃ…」
「片倉くんしっかりしたまえ!考えてもろくな結果が出ないだろう!」
「す、すまん、初めての事で動揺して…」
「何よ師匠って。脳味噌腐ってんの?」
「ち、違うよ!助けてもらったし、頼りになるし、強そうだし、言葉少なでやるときゃやるみたいな男気を感じ取ってだな、同じ男として尊敬するに値すると理解したんだよ!」
「片倉くん誉められてるぞ」
「いや…はは…」



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