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「片倉くん!あれほど軽々しく私の…」
「すまんすまん、仲間が増えると思うとつい嬉しくてな」
「呪うぞ?自縛霊に戻りたいのか?」

片倉を諌めたものの、いずれは言わなければならなかったことだし、と飛鳥の顔に書いてある。怒気は含んでいなかったが言葉に刺がある。片倉は笑ってごまかすと新入部員の方を向き直った。
二人は硬直している。零威は口を一文字に結んで膝の上で手を握っているが、朔夜はかたかたと震えていた。呪術師。その言葉は先輩二人が思うよりずっと怖いのだ。

「呪術師ってあの…人や動物を自在に呪い殺せる…」
「幽霊すら地獄に落とせると言うあの…」

呪術師…二人は口を揃えて呟いた。呟いた単語に更にびくつく朔夜。ひぃと悲鳴を上げると立ち上がって背後のベンチに飛び付いた。一連の朔夜の行動に零威も倣いたかったが我慢した。

「そんな飛びすさって怖がらなくてもいいじゃないか。呪術師にだって人間の心はあるよ?ちゃんとした理性のひとだよ?」
「す、すみません、今まで家の方針で呪術師とは関わらないようにしてきたものですから…」
「ははは、呪術師を怒らせるとすぐに呪い殺されるとか聞かされて育ったんだろう。あながち間違いじゃないけど私はそんなことはしないよ」
「呪術師怖い…怖い…」
「さっきー、落ち着きたまえ」

朔夜は蒼白な顔でぶつぶつと呟いている。視点は結んでいないが片倉と飛鳥の間を行ったり来たりしている。零威はしばらく握りしめた拳に汗が滲むのを感じていたが、情けない朔夜の行動への怒りが沸いてきた。仮にも霊を繰る一族の末裔がなんという醜態だろう。呪術師と言う言葉ごときに飛び上がって逃げるとは。しばらく考えていたが朔夜への怒りが勝ったのか、勢いよく立ち上がると歩みより胸ぐらを掴んだ。

「呪術師が何よ!あんた男でしょ!」
「ひぃっ!零威ちゃんやめて!」
「あんた幽霊より人間のが怖いわけ!?呪術師も所詮は人間なのよ!平気で人を呪ったり不幸のどん底に落とし込んだりするかも知れないけど、所詮は人間なの!」
「ひどい言われようだな」
「わ、わかってるよ、わかってはいるんだよ…でもその言葉を俺は断固として受け入れられない!断固拒否する!」
「なんでよ!!」
「なんでだい?」
「何故だ?」

朔夜は異常なまでの動揺を見せる。今にも悲鳴を上げて卒倒しそうな様子にさすがの零威も怯んで掴んだ服を放した。飛鳥と片倉は面白そうな事を見つけた、と言わんばかりに立ち上がって距離を詰めてくる。朔夜は飛び上がってベンチから奥に積まれた長机の山に駆け上った。

「零威ちゃんは呪術師の恐ろしさを知らないからそんな風に言えるんだー!」
「呪術師の恐ろしさ?」
「俺は昔何度も呪い殺されそうになったんだ!呪術師なんて絶対信用しないぞちきしょーめべらぼーめ!」

追い詰められた小動物のようにかたかたと震え目に涙をうかべる朔夜。言うだけ言うと足場の悪い長机の上で丸くなってしくしくと泣き始めた。零威はなんとなく溜め息をついた。自分も親から何度となく呪術師の恐ろしさを聞いてきたが、相手は身を持ってその恐ろしさを知っていたのだ。憐れと言う言葉以外浮かんでこない。零威はこう言うとき相手を慰める言葉を知らなかった。気が短く言葉少ない。そんな自分の気質にうんざりした。

「さっきー、私を信じてくれ」

おもむろに飛鳥が口を開いた。
身長より高い場所で泣き崩れる相手を見上げて、至極明るい口調で声をかけた。朔夜はぴくりと体を震わせ、首だけ飛鳥の方へ向けた。目が充血している。どれだけ情けない男なのか。

「私は誓って一度も人を呪い殺したことはないし、これからもそんなことはしないつもりだ。これから同じ劇部で仲良くやっていけばいいじゃないか。呪術師だって悪い奴ばかりじゃないよ?それに私は呪術師だけど流仙騎でもあるんだ」
「るせんき?」
「そうだよ、私は片倉くんが天国へ行けるように流仙騎としてサポートしているんだ」

呪術師で流仙騎。信じられないと言った風に零威は飛鳥を見つめた。人を不幸のどん底に落とし入れる呪術師と、自縛霊を己に憑かせることで良い行いをさせ輪廻のサポートをする流仙騎。全く正反対のクラスである。飛鳥は優しい笑みをたたえたままそっと朔夜に語りかける。



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