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演劇部ですよね、と朔夜が呟くと飛鳥は心外そうに目を丸くした。

「君達は片倉くんが見えるから仲間だと思ったんだが。違うのかね?」
「は?見える?」
「片倉くんは幽霊だよ」

二人は同時に目を丸くした。飛鳥が言ったことが理解できなかった。目をぱちくりさせて朔夜が口を開いた

「幽霊?」
「そうだよ。私の守護霊だ」

飛鳥はさも当たり前のことを諭すように大きくうなずいた。

「属性は白等。400年程前に熊と素手で闘い…」
「ちょっ、ちょっちょっちょっ!」
「何かね」
「ゆ、幽霊とかいきなり言われても困りますよ!」
「何故かね」

朔夜は両手を胸の前に突き出してぶんぶんと振った。零威は何も言わずに目を細めて朔夜を見た。今言われたことは理解したが受け入れがたいと言いたげに零威には見えた。こいつも『普通』か…そんな気落ちにも似た感情が沸き上がってきた。

「幽霊なんて普通でしょ」
「え!?」
「おお、れいちゃんは話が解るようだね」
「ええ…魔闘騎ですから」
「ほう」
「れ、零威ちゃん?」
「あんたもこの演劇部の事聞いて入ってきたんじゃないの?何某学園演劇部指定…学費無償措置で」
「あんたも…って…まさか零威ちゃん」
「そうよ。私も演劇部指定無償措置で入学したの」

朔夜は驚いたとも脅えたとも取れぬ顔つきになった。零威は溜め息をつく。やはりそうだったか。学費免除と聞いて同じ部類の人間だと思い込んでいたがこの反応。『普通』だ。この男も零威に脅え、非科学的なものを否定する、そういう『普通』なのだ。なんだか諦めにも似た苦い感情が胸に広がった。

「そっか零威ちゃんもだったんだ…」
「…そうよ。悪かったわね、『普通』じゃなくて」
「普通?」
「幽霊の見えないノーマルの事よ。私の家系では『普通』と呼ぶの」
「………」
「………」

沈黙が流れた。飛鳥の不用意な一言から零威の素性がばれることになったのだ。そう思うと目の前の二人が恨めしく思えた。せっかく学校に入学できたのに、初っぱなからこんなことでつまずくなんて。朔夜が人に言うとは限らないが彼の中で自分はそう言う人間になってしまったのだ。片倉が幽霊などと言う妄言は信じないか、目の前の二人のどちらかが彼の中からこの記憶を消し去ってくれないかと願った。せっかく友達ができたと思ったのに。

「零威ちゃんも見える人なんだ」
「…見えるなんてもんじゃないわ。触れるし、コミュニケーションも取れる。ましてや倒すことだってできる」

なぜこんな話をしてるんだろう。そう言えば何故朔夜には片倉の姿が見えるのだろうか。片倉の霊力が強いから磁場を崩して影響しているのかもしれない。あまりにもはっきり見えるので自分も幽霊だとは気づかなかった。だったら彼に見えたとしても不思議はない。

「魔闘騎だもんね」

ぽろりと出た一言に零威は俯いたまま目を丸くした。今なんと言った?

「でもやっぱり守護霊だなんて急に紹介されても困りますよ。…なんせこっちは連れがいない」
「え…?」
「零威ちゃんにバレたら化けモン扱いだと思って言えなかったんだけど」

朔夜が零威の方を見た。
にやついてるとも同情ともとれない。本気とも冗談ともとれない。彼にしか浮かべられない笑顔。自然と目が引き付けられた。

「零威ちゃんは強いね、隠さずに打ち明けられるなんて」
「あ、あんたまさか…」

今度ははっきりにっこりと笑った。親愛の情がくっきりと浮かぶ。朔夜は短く言った

「俺は神降師です」

目の前の光景が信じられなかった。その一言で充分だった。『普通』が知るはずもないことば。神降師、そう神降師と言ったのだ。少しだけ違和感があるのは相手が男だと言う、それだけだ。

「でも、神降師は女系…」
「ちっちっち…家は先祖代々神降師です」
「あんた男じゃない!」
「百年に一人の逸材…とか呼ばれてる」
「男の神降師…?」
「それは私も初めて聞いたな」
「俺もだ」
「今年は神降師、魔闘騎、霊調官が入ってくるって聞いたから、れいちゃんが神降師だと思っていたよ」

飛鳥がようやく口を挟んできた。零威の七面相とバレまいと必死な朔夜に気付いていたようだ。目には優しい光がともっている。

「そんなこと言ったら魔闘騎だって男系じゃないか」
「男ばっかじゃないわよ!何人かに一人は女よ」

零威の声は先程とは打って変わっていた。明るいとまでは行かずとも、玄関前で話した時のような親しみのこもった声だった。零威はふと考えた。『打ち明ける勇気』。朔夜が誉めたそんなものは実は彼女の中に無かったのだ。打ち明けるしか方法を知らなかった。それが正解だ。しかしそれ告げようと言う気にはならなかった。自分に嫌われたくなくて、隠し通そうとした朔夜にもそれなりの事情があると察したからだ。零威も朔夜も根本では同じことを考えていたのだ。

「神降師に魔闘騎か…家の部にも新しいクラスがはいったね」
「そうだな。だが後継者が居なくて残念か」
「とんでもない、あんなんになる方の気がしれないよ」
「いきなりあんなことを言ってきたということ…やっぱ飛鳥先輩も?」
「こいつは呪術師だ」

飛鳥が気を察して止めようとしたが間に合わなかった。朔夜と零威の顔に恐怖の色が浮かぶ。



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