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大男は外国人らしかった。流暢とは言えない日本語で青年をいさめる。立派な金色のカイザー髭を蓄えた大男は、かぶっていたテンガロンハットを取って、胸に当て礼をした。

「お初オメニかかりマス。私レイさんの背後霊、マイケル言いマース」
「…マイケルさんが言うから仕方なく自己紹介してやるんだからね。僕は武者小路群蔵。」
「はぁ、どうも…皇朔夜です」
「オー、アナタがさっきーね!話は聞いてマスデス。私のコトはマイケル、彼のコトは武者くんと呼んでくだサーイ。仲良くしてくだサイね〜」
「よろしく、俺のことはさっきーと」
「マイケルさん、こんな奴と僕は仲良くする気ないよ!」
「『君は横柄だな』」
「なに…!?」

マイケルと朔夜が話していると、再び群蔵がきぃきぃいい始めた。口を挟んだのはダンだ。群蔵は精一杯の睨みでダンを見るが、ダンはまったく動じないどころか素の無表情で群蔵を黙らせた。

「『零威と仲良くしてやってる朔夜に対して大した口の利き方だ。躾が必要か』」
「な、なんだよ、君は…」
「『さっき名乗ったろう。二度は名乗らない。僕の朔夜にいちゃもんをつける気なら僕が相手になろう』」
「君は関係ないだろう!」
「『朔夜に関することなら大いにある。…煩い小鼠だな、実験材料にしてやろうか』」

ダンが胸元にかざした手からメスと手術用のはさみが現れる。予想外の親友と言い張る男が現れたことと、目の前で朔夜が不当に糾弾されているのをみてよほどいらいらしているようだ。すっかり面白いと判断したのか、その背後で松本が輸液ポンプを具現化させた。群蔵の顔色が変わった。

「ぼ、僕は単に零威さんが迷惑していると思って…」
「『貴様の大好きな零威が僕にとっては迷惑なんだ。わがままはほどほどにしろ、クソガキ。五体どころか微塵にバラすぞ』」
「す、すみません…」
「武者くん、私別に迷惑してないわ」
「零威さん」
「さっきーは男の娘なの。だから抱きつかれようがなにされようが気にすること無いのよ」
「零威ちゃん、男の娘って何!?俺ちゃんとした男の子!」
「うるさい、黙れ。さっきーにちゃんと謝って、武者くん」
「う…ご、ごめん」

零威の一言は群蔵にとって絶対のようだった。
食って掛かったことを素直に謝ったが、目はまだ完全に朔夜のことを信用していなかった。テンガロンハットをかぶりなおしたマイケルが、その頭をぽんぽんと叩いた。病弱そうな青年とムキムキの大男はまるで親子だ。

「ごめんなさいね、武者くんはあたしの事になると人が変わるの。普段は大人しくていい子なんだけど」
「それって零威ちゃんの前でだけなんじゃない?」
「………!」
「ナナちゃん!心配したのよ!何処いってたの!」

零威が申し訳なさそうに言うと、その背後で鞍羅が叫ぶ声が聞こえた。
どうやら高校生の波の中をもみくちゃにされながら声のする方へ目指してやってきたようだ。少し広くなった幽霊と人間の混在する場所に出たナナは多少よれていた。全員が振り返って見ると泣きそうな顔をしている。そのまま服も正さず鞍羅に抱きついて、胸にぐりぐりと顔を埋めた。
悪乗りしている連中も含めて、これで一年生の背後霊と守護霊はそろったわけだ。初顔合わせがこんなところでなんだかあわただしいが、全員がそろう頃には交流時間は終わりに近づいていた。



「皆さん、交流時間はこれで終わりです。何人かの幽霊さんとお話はできましたか?二年生三年生は一年生が話すのを邪魔しませんでしたか?オリエンテーションは一年生のために行っているということをお忘れなく」

滝川の言葉に、上級生は大きく返事した。事実邪魔はしていなかったと思う。しかし、朔夜達は体育館の隅で一年生の殆どの霊を集めて話していたので、逆にそっちの方が迷惑になっていたのではないかと心配になった。




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