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ミッチェルは膝を折った。確かに生前から全然笑わない冷徹な男であったが、ミッチェルと、彼の恋人に関しては心を開いてくれていたはずだ。なのにそれが自分に対してまでこんな偏屈になってしまった理由が分からなかった。
おそらく多くの記憶をなくして、自分を見失ってしまったのだろうとミッチェルは思った。親友の小さな変化が、彼にはとても悲しかった。

「…そうか、私はもう君の親友を名乗る権利はないのだな」
「『そうは言ってない』」
「え?」
「『君が生前僕の親友だったかは確かめようが無い。僕には記憶がないからな。しかし、君がそうだったと言うならそう思えばいい。僕もいつかは思い出すかもしれないしな。しかし毎日顔を見せられるのは迷惑だ。それは控えろ』」
「クラーク…」

ダンはそう言って松本とミッチェルの腕をつかむと、もみくちゃにされている三人と幸の方へ歩みだした。朔夜の背後に立つと、大声で松本に代弁させた。

「『僕の名は、ダン・K・アルフゲヘナ。朔夜の背後霊だ。皇朔夜を世界一愛しているのはこの僕だ。以後朔夜に対して何かアクションを取る際には必ず僕の了承を取れ!』」
「ちょっ、ダンくん!?」

あたりが一瞬静まり返った。朔夜は慌ててダンの口をふさぐが、しゃべっているのは松本なので意味はない。
すると、その声を聞きつけたのか、人だかりの向こうから何か巨体の人間が近づいてくるのが見えた。身長二メートルは越すであろう、巨漢である。肩には抱えるようにして座っている高校生くらいの男。幽霊だ。一発で分かった。なぜなら、肩に乗っている青年の足が燃え上がっているからだ。大男は彼を肩に乗せたままずんずんとこちらへ向かってきた。それを見て零威の顔色が変わる。

「げ、マイケルさん、武者くん…」
「知り合い?」
「零威さん、探しましたよー」
「やっぱり来てたのね、二人とも…」
「あ、あのふたりもしかして、零威ちゃんの…」
「きっさまぁぁああ!皇朔夜ぁぁああ!零威さんの肩なんか抱いてるんじゃないよ!なれなれしい、離れ…げぼっ!」

零威に向かって仏のような笑顔を向けた青年は、零威の肩に回っている朔夜の腕を見て修羅のような形相になった。そしていい終える前に咳き込んだ。青年を抱えている大男が心配そうに顔を覗き込むが、青年は大丈夫だと言いたげに頷いた。

「なんで俺が朔夜だってわかったんだろう」
「…………」
「零威ちゃん?あの二人零威ちゃんの背後霊だよね?」
「…そうよ」
「なんか…アンバランスだね」
「貴様、離れろと言ってるだろ!」

大男が歩み寄ってくると、また人並みが割れて狭い場所が出来た。大男はそこに青年を下ろしてやる。青年は朔夜を指差して猛烈に怒っている。なんで怒られているのから朔夜には分からなかったが、零威には分かった。

「さっきー、ちょっと離れてくれない?でなきゃあの人勝手に憤慨して吐血して大騒ぎになるから」
「え、そりゃ難儀だな…わかったよ」

朔夜は言われるがままに零威の肩から腕を外した。青年は少し平静を取り戻したようだった。そのまま零威から離れた朔夜の前にどんと立ち、その顔ならず全身をじろじろと見回し始めた。

「君が皇朔夜だよね」
「そうだけど」
「零威さんにちょっかい出してるってホントみたいだね」
「ちょっかい?」
「零威さんから聞いたよ。君、ものすごくモテるんだって?」
「いや、モテてないよ」
「嘘言うんじゃないよ!それで女の子はべらせながら零威さんにもちょっかちだしてるってどういうこと!?僕は許さないからね!二度と零威さんに近付かないでくれる!?」
「はぁ?ちょっと言ってる意味わかんないんだけど。横暴すぎない?君こそ何様?名乗りもしないで言いたいこと言って終わりって礼儀がなってないんじゃない?」
「なっ…」
「ソウだよ、武者クン、まずは自分の名前名乗る、コレ常識デスね」




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