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朔夜に言われて背筋を正したダンが、ネクタイを締めなおして周囲から遠巻きに見ている人間に自己紹介をしようとしたしたときだった。
遠くから聞きなれない名前が呼ばれた。ダンははじかれたようにそちらに目を向ける。

「クラーク!クラークじゃないか!」

声の主は先程代表としてステージ上に上った金髪の美男子、ミッチェルと言う男だった。松本同様人間をすり抜け、ぶち当たる人間をかき分けこちらへ向かってきている。その後ろからショートカットの可愛らしい女の子がついてきている。すり抜けられないぶん、幽霊を目の前にして固まっている人間を押しのけるのに苦労しているが、一心不乱にこちらへ歩み寄ってきている。
ミッチェルはずんずんと歩み寄ってきて、ダンの両手をつかんだ。

「クラーク、お前日本にいたのか!私もかなり前からこの国にいたが…こんなところで会うとはとんだ運命だな!」
「………?」
「『誰だ、君は?』」
「君には話しかけていないぞ」
「いや、博士の言葉は僕が通訳してるんです、だから今の言葉は博士の言葉です」
「なんだと?…クラーク、私を忘れたのか?」
「『君という人間を全く知らないんだが』」
「私だ、ミッチェル・フランシス・ド・ランサールだ」
「『聞いたことも無いな』」
「なんだと!?君は私の顔を見忘れたどころか名前まで忘れてしまったというのか!?」
「あの、落ち着いてください。博士は生前のことは殆ど覚えてないんです。きっとあなたの名前も顔も思い出せないだけなんですよ」
「なんと!…科学者であるお前が自分の脳の管理も出来ていないとは…あきれたと言うかなんと言うか…」

ミッチェルはありえない、と言うように片手で目を覆って天を仰いだ。いちいち芝居がかった行動だが、その行動の最中に、後からついてきていた少女が追いついた。

「みっちゃん、いい子にしててって言ったでしょ、勝手に動かないで頂戴!」
「おお、すまない幸。遠方に知った顔を見かけたのでつい、な」
「すみません、うちの守護霊がご迷惑を…」
「いや、うちの守護霊なんか顔も覚えてないなんて失礼を…すみません。こんなところで外国人の幽霊が出会うなんてほんと運命かもしれませんね」
「そうですね、うちの馬鹿は恋人探し以外興味ないみたいですけど」

どうやら、ダンが朔夜に抱きついていたところは見ていたようだ。ダンの主人だと判断したのか、幸と呼ばれた少女は朔夜に向かって丁寧に頭を下げた。朔夜も反射でぺこりと頭を下げる。ミッチェルはダンの手を握ったままだったが、ダンはそれをぺしっと叩き落として白衣のポケットから出したハンカチで手をぬぐい始めた。

「ちょっと、ダンくん、何失礼なことしてるの!」
「酷いじゃないか、クラーク!私たちは親友なんだぞ!?親友の握手をいきなり拭うなんて…」
「親友!?」

ダンとミッチェル以外の関係者の人間がビックリして叫んだ。周囲で見ている人間もビックリして目を丸くしている。

「ダンくんに親友!?」
「嘘でしょ!?」
「この偏屈さっきー大好き変態幽霊に友達がいたのぉ!?」
「うむ、私はクラークの唯一の親友だ。私の恋人も彼の友人だったんだが覚えていないだろうか」
「『名前を聞けば思い出すかもしれないな。君はまったく思い出せないが。大体なんで君は僕をクラーク呼ばわりするんだ。僕の名前はダン・K・アルフゲヘナだ』」
「おぬしのミドルネームがクラークだからに決まってるだろう。ダンと呼ばれるのは嫌いだからクラークと呼べと言ったのは君だろう」
「『まったく記憶に無い。僕はダンだ。もしくは博士と呼べ』」

ダンはえらそうに腕組みをして命令した。ミッチェルはしばらく考え込んでいたが、首を横に振った。

「いや、私はクラークと呼ばせてもらう。君が私のことを思い出すまでな」
「『強情な奴は嫌いだ』」
「知っている」

親友と言うだけあってダンの性格は熟知しているらしい。それでも曲げないと言うことは、こちらもかなりの頑固者だ。




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