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男はそう言って仰々しく礼をした。松本も慌てて頭を下げるが、表紙に帽子が外れてかぶりなおす羽目になった。

「松本くん、かっこ悪い…」
「あの幽霊知ってるのか?」
「知ってるも何も俺の守護霊だよ…」
「皇の!?」
「あのカッコいい金髪のお兄さん?」
「いや、間抜けな帽子の方」

朔夜は、はぁ、とため息をついた。
壇上に自分の幽霊が出てくることもびっくりだが、いつもながらの気の抜け具合にもびっくりだ。

「幽霊って男しかいねーのか?」

隣で唐沢がつぶやいた。確かに壇上に上った幽霊は七人とも男のようだ。無論、女の幽霊も存在する。しかし、高霊力の幽霊は確かに男が多い。男は生前霊力が低い代わりに死してから霊力が強化されるケースが多いからだ。

「えー、本日壇上に上がっていただいた幽霊さんは皆さん男性ですが、もちろん幽霊さんには女性もいますので勘違いしないように。図書館司書の益若先生などは女性です」

唐沢の言葉を聞いていたように滝川が付け足した。

「それではこれより30分ほど幽霊さんとの交流会をしてもらおうと思います。今壇上に上がってくださった方々以外の幽霊さんも体育館内に出ていただきますので、失礼の無いように話してください。ああ、ちなみにみなさんに普段ついている幽霊さんは霊力が弱くて、今現在張っている結界の中には入れません。ですので、体育館内にいらっしゃる幽霊さんは、結界を突破できるほど強い霊力の持ち主です。皆さんにも人間の姿として認識できますので、安心してください。それでは幽霊の皆さん、どうぞ」

滝川が一方的に淡々と説明をして、体育館横に並んでいる幾つかの入り口が開いた。二階から光は差していたが、朝の光が開かれた扉から流れ込んできた。そこには数人の人間の姿。朔夜達には後光が差して見えるが、ほとんどの人間は光が透けて中途半端な姿に見えるだろう。一年生の側からなだれ込んできたと言うことは裏手にあるテニスコートに控えていたのだろう。体育館の影になっているから幽霊には居心地がいいはずだ。
そんな中、扉が開いた瞬間に脇目も振らず朔夜のところへ歩み寄ってきた白衣の男が一人。
朔夜の目の前に立つと、身長差は15cmほどもあるだろうか。その男が、朔夜の両腕にしがみついている零威と鞍羅を引き剥がし、朔夜に思いっきり抱きついた。

「………!」
「だ、ダンくん、ちょっと」
「………!」
「『朔夜、朝から君の隣にいられないなんて最低な一日だ!愛してる、もう離れない!』」
「あ、松本くん」

朔夜は自分の肩口に顔を埋めて抱きしめているダンを尻目に、いつの間にか傍に寄ってきていた松本に声をかけた。松本は笑顔で手を振っている。

「博士、僕がいないと会話できないのに朔夜くん一直線なんだから。『うるさい、君は代表になんか選ばれて浮かれてないで僕達の半径一メートル以内にいろ』。もう、勝手なんだから」
「おお…幽霊と話してる…」

矢野が驚いた半分好奇心半分で呟いた。松本が人間をすり抜けながら歩み寄ってくると、通りぬけられた人間はびっくりして身を引いていた。それでも何人かにぶち当たったから霊力の強い人間が混じっているのだろう。朔夜はなんとかダンを引き剥がそうとしているが、非力なりに必死に抱きしめているのだろう、なかなか離れてくれない。

あちこちで声が上がってきた。たくさんの幽霊が人間の中に入って行ったようだ。結界を通り抜けられるほど強力な霊力を持った幽霊がそんなにたくさんいることにびっくりだが、一番人気を博しているのはどうやら二年生の幽霊代表、ジャックとジョージのようだ。

「ダンくん、離れてくれない?傍にいて良いから」
「あたしたちを引き剥がしてまで抱きつきたいなんて煩悩の塊ね」
「さっきー、あたしもぎゅーしてほしいわぁ」
「ちょっと待ってね、くらら。この馬鹿もう少ししたら離れるから」

見当違いの文句を言う鞍羅をなだめて、朔夜は再びダンを引き剥がしにかかった。今度はダンはゆっくりと離れた。しかし、目は真剣に朔夜の瞳を見つめている。朔夜は、それににっこりと笑い返した。

「ダンくん、俺だけじゃなくて他のみんなにも愛想振りまいてくれるかな」
「『朔夜の命令ならそうしよう。諸君、僕の名はダン・K…』」
「クラーク!」




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