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「師匠ってこの学園でよく見る幽霊の一人だったんだな」
「そうねぇ…私達にしか見えないかと思ってたわ」
「続いて二年生の幽霊。…まったく、また貴方達ですか。少しはわきまえてください。ジャックくん、ジョージくん」

滝川が苦虫を噛み潰したような顔をした瞬間、片倉と要の掃けたステージ中央にどろん、とふた筋の煙が立ち昇った。




「荒野のガンマン、旅鴉」
「しおれた一輪、百合の花」
「枯れた体を振り絞り」
「流す涙をその花弁に」
「諦めないで、俺がいる」
「絶望しないで、俺がいる」
「君のためなら何も無い」
「荒野も花で埋めてみせる」
「俺の名はジャック、愛の戦士」
「俺の名はジョージ、夢の戦士」
「「ふたり併せてW.J(ダブルジェイ)!!!!」」

どっかーん!
二人が大仰にポーズをつけて名乗り上げた。
その後ろで発炎筒のような物が煙を吐いて演出に花を添えた。ついでに紙ふぶきとリボンのようなものも吹き出して、こめかみに青筋を立てている滝川の上に降りかかった。
途端に上級生が大騒ぎを始める。人気者のようだ。

「きゃぁぁああ、ジャックこっち向いてぇぇええ!」
「ジョージ、愛してる〜!!」
「今日の名乗り上げも最高だったぜぇえ!」
「よっ、英国一!!」
「サンキュー、サンキュー、サンキュー、セニョール、セニョリータ」
「俺達の十八番をココで外すわけにはいかないからな。サンキュー、子羊ちゃんたち」
「アホだ…アホがおる…」
「二年の幽霊はアホなんだ…」

一年の間でどんどん幽霊と言うハードルが下がっていく。
アホ二人はさも当たり前のように対極に燃え上がる足を開き、片腕を腰にあて、反対の手のひらにぼわんと現れさせた帽子を頭にかぶるしぐさのまま、自己紹介を始めた。

「ハロー、セニョール、セニョリータ。俺の名はジャック。ジャック・ヴィルモートン。死因は寝タバコで焼死。幽霊歴は20年ちょっとかな。ジョージとは見てのとおり、親友さ」
「ヤック、ヤック、セニョール、セニョリータ。俺の名はジョージ。ジョージ・フレアモール。死因は風呂で溺死。幽霊歴は15年ちょっとかな。ジャックとは見てのとおり、親友さ」
「この学園の残念なイケメン、三枚目コンビとは俺達のこと」
「覚えておいて損はねぇ、ロックにチェックだぜ」「はいはいはい、アホ二人はもういいですから。次は一年生、代表おねがいします」

滝川が手を叩きながら二人のアピールをさえぎった。二人はへこむ様子も無く、壇上から手を振ると、片倉たちの方へ歩んでいった。そしてもう片倉に絡んでいる。なんてチャラいんだろう。

「はーい、一年代表の松本勇輔ですー」
「同じく、ミッチェルだ」

今度現れた二人もまた正反対のいでたちをしていた。
一人はくたびれた半袖のつなぎに、野球帽姿のアイドル顔の典型的日本人。もう一人は中世の貴族を思わせる金糸の髪、丈の長い中世独特のスーツに首元には真紅のスカーフ。はっきり言って美青年だ。

「みなさん、はじめまして。こんな大人数の前で自己紹介するのは恥ずかしいんですが…僕は松本勇輔といいます。えーっと、生前は自動車の整備する人でした。死因は…飛び降り自殺です。なんか悩みがある人はいくらでも相談に来てくださいね、僕の二の舞にならないように。幽霊歴は確か五年くらいかなぁ。よろしくね」
「松本くん、これで遅れてくるって言ったのか…」
「お初にお目にかかる、諸君。我が名はミッチェル。ミッチェル・フランシス・ド・ランサール。英国の貴族だ。恋人を失って失意の末に病没、今は恋人を探しながら守護霊をしている。社交は得意な方だ、気軽に話しかけてくれたまえ」




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