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滝川の言葉に今度は全校生徒から笑いが漏れた。
滝川の隣にはまだ的場が静かにたたずんでいたが、もう幽霊だと言う認識は薄れてきているようだ。

「当学園では、的場先生のように幽霊が教科の先生を担当して言ることがあります。幽霊だからと言っていじめたり、仲間はずれにする方にはそれなりの制裁が加えられますので心に焼き付けて置いてください。それでは、的場先生に慣れたところで、次に、この学園でよく見る幽霊さんを何人か紹介したいと思います」

矢野がまだ続くのか、と小さく漏らした。
朔夜達の周辺の人間は、もう朔夜達を質問攻めにしたくてたまらないらしい。よもや矢野の呟きが聞こえたとは思えないが、滝川がこちらを見て咳払いをした。矢野は唐沢の影にさっと隠れた。

「ではまず、三年生に取り憑いている幽霊の方々。今日は各学年二人ずつお呼びしました。片倉くん、橋本くん」
「応」
「はい」

緞帳の影から、二人の幽霊が顔を出した。
一人は長い黒髪を後頭部で一つに縛った見覚えのある着物姿の男。もう一人は栗色の髪を七三に分けた燕尾服の初老の紳士。
足は言わずもがな燃え上がっている。

「あ、師匠」
「始めましてだな、諸君。俺の名は片倉唯一郎。武道家だ。死因は熊と一騎打ちした際に足を滑らせ転倒した頭部挫傷。頭が半分陥没しながら熊には勝ったがな、そのあと死んだ。今は守護霊だが、かつては自縛霊だった。幽霊歴は四百年程度かな。おそらく一番の古株だと思う。よろしく頼む」

片倉が満面の笑みで片手を上げて、よっ、と挨拶した。さわやか過ぎる。死人とは思えない。続いて、隣に控えていた紳士が一歩前へ出て挨拶を始めた。

「はじめまして、皆様。わたくしめは橋本要と申します。生前は坊ちゃまのお屋敷で執事をさせていただいておりました。死因は情けないことに、肺がんが脳に転移して、あっけなくでございます。片倉さんほど壮絶でなくて申し訳ありません。幽霊歴は十年ほどでございましょうか。一応坊ちゃまの守護霊をさせていただいております」

そう言って深々と頭を下げた。坊ちゃまというのが気になるが、片倉とは正反対の上品さを備えていた。片倉には失礼だが、大人の落ち着きというものがある。

「幽霊って、ほんと人間みたいだな」
「人間だったんだから当たり前だよ」
「もっとこう、なんか片足無かったらりとかエグイの想像してた」
「それは、そういう風に見えないように霊力が勝手に調整してるんだよ」
「調整?」
「そう。リミッターとも言うんだけど、精神的に見たくないものって歪んだり見えなくなったりするだろ?人間が死んだ様子なんて普通の人間は見たくないんだよ。だから脳味噌がその幽霊が発してる霊力を感知して生前と同じ姿に見せるんだ」
「へー…お前物知りだな」
「子供の頃からずっと幽霊について勉強してきたからね。ちなみに、そのリミッターをはずすと、さっき俺がなったみたいな黄泉状態になるの。幽霊の死因や、死んだときの姿、普段は見えない低級霊も見えるようになる。まぁ、よっぽど霊力発揮しないと無理だから普通の人には無理」
「ふむふむ」
「さっきー、あたしたちにも後で教えて。まだ幽霊のことよくわかんなーい」
「女子キモい!俺達にも教えてくれよな、約束な。あ、剣と巫もな」
「うん、三人で全員に納得いくまで説明するよ」

零威と鞍羅は、い組のプレッシャーに押されそうになっている。しかし、クラスメイトのところに帰ったからと言ってこんな反応をしてくれるとは限らない。今のところ、ココが居心地が良かった。気がつかないうちに二人して朔夜の両腕にすがって、はぐれないようにしている。




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