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「ここの学園に居る幽霊ってさぁ〜別になんか悪さするわけじゃないし〜、見えるし触れるから何?って感じじゃん。俺達だって、こいつがあればいくらでも見えるし触れるんだぜ?あの三人を恐がる必要なんて何処にあるわけ?俺だって無くても見える人だけど、もう三年の中じゃ埋もれちゃってわかんないよね〜」
「斑くん、いいことをいいました」

滝川が手にした扇子で人ごみを指した。三年生のようだ。三年の中央付近で人に囲まれて誰が発言したのか分からなかったが、周囲の連中はその進言を褒めてもみくちゃにしているようだった。
その言葉を聴いて、一年生の何人かの目の色が変わった。確かに、自分達も幽霊を見たのだ。そして、これから三年間見続けるのだ。それが補助装置が無いから見えると何が違うと言うのだろう。もちろん霊力だが、それは生まれもってしまったアレルギーのようなもので、きっと三人が望んで手に入れたもので無いということに気づいた沈黙だった。

「もう、戻って良いですよ」

滝川に促されて、三人は壇上を降りた。
まだ周囲には人垣が出来ていたが、三年生の台詞のお陰か、恐怖の色は失せていた。中にはきらきらした瞳で見つめている生徒も居る。あの目にも見覚えがある。オカルト好きな人間の尊敬のまなざしだ。

「皇、お前見える人だったんだな。でも俺達にも見ることが出来るって聞いてもっとびっくりしたわ」
「俺も、びっくりしちゃったよ。でも安心しろよな、お前を馬鹿にする奴なんか居たら俺達がぶっとばしてやるよ」

元の場所に戻ると、矢野と唐沢がさも当たり前のように寄ってきて朔夜と二人に声をかけた。

「剣、巫、お前らもな。なんかあったら言えよ、新聞部でつるし上げてやるぜ」

矢野が八重歯をのぞかせて笑い、唐沢が細い目を更に弧にして笑って見せた。途端、周囲にいたい組の面子が三人になだれ込んできた。

「何もつけないで幽霊見えるなんてすげぇ!」
「ねぇ、触ったりもできるの?幽霊ってどんな感触?」
「しゃべったりもするんだろ、さっきの的場…せんせいだっけ?みたいに」
「私たちも見えるんだから特別視する必要なんてないわ」

さすが無駄にのりのいい、い組の生徒。他のクラス等置き去りでもうわいわい質問攻めだ。
それを制したのも滝川だった。

「まだオリエンテーションは終わってませんよ。お黙りなさい。…いいですかみなさん、皆さんが幽霊を見ることができるのはこの学園内のみです」

滝川の言葉に体育館中が静まり返った。

「この学園には結界が張られています。悪霊、低級霊、たちの悪い浮遊霊が入れないようにするための結界です。学園内に現れる幽霊さんは、それをパスした善良な背後霊、守護霊にかぎります。殆どが教員、生徒についている方々です。校舎や敷地内には、その幽霊さんたちが霊力を大して消耗しなくて良いように、簡易具現化結界も張っています。具現化というのは、幽霊が人間に見える状態のことです。矯正0から2の生徒は触ることも可能です。ですからこの学園の敷地内で、リストバンドをした状況でのみ幽霊を視認することが可能です。矯正というのは霊力の強さを5段階で設定した学園独自の基準です。オリエンテーションが終わったあと、個々の属性と矯正の段階を測るテストを行います。これは、この学園で重要なものになってきますので、絶対にわすれないように。属性と矯正が決まったら、上級生のように一人一人のために作られた専用のリストバンドをもらえます」
「専用の…!」
「属性とか矯正とか今はよくわかんねーけど、なんかすげーな!」
「要するにこの学校って幽霊学園!?」
「なんかテンション上がる〜!」
「言っても無駄でしょうけど、他の学校の生徒や関係者以外にこの事実は言わないように。言っても良いですが、一生変人扱いですよ」




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