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「おい、皇、幽霊全然恐くないぞ」
「…………」
「おい、皇ってば」
「………もん…」
「え?」
「こんな…もん…」
「大丈夫か、皇、顔色…」
「こんなもんはめてらっれかぁぁああ!」

体育館中に響き渡る声で朔夜は叫んだ。
同時にリストバンドをむしり取り、床に叩きつけた。

「皇!?」
「なんで丸焼けで頭と右腕と左足欠損してる焼死体見せられなきゃなんねーんだよ!黄泉状態だっつってんだろ!」
「どうしたんだよ、お前、焼死体って…」
「俺はこんなん無くても幽霊見える人なの!こんな強力な結界つけて黄泉状態になったりしたら、幽霊がどんな死に方したか、つまり死体が見えるの!!」
「え?お前…」

一気に叫んではーはーと息を上げる朔夜を、周囲の人間がじろじろと見ている。上級生の笑い声も引っ込んだようだ。

「お前、これなくても幽霊見えるの?」
「…そうだよ。もうこうなっちゃったから言うけど、俺すごい霊力強い人。これがなくても幽霊を認識できるひと」
「さっきー!」
「さっきぃー!」

叫び声を聞いて遠方から零威と鞍羅が駆けてきた。
二人は真っ青な顔の朔夜を矢野と唐沢を押しやって囲んだ。

「あんた脳味噌腐ってんの?あれつけたの?あれが何か分からなかったわけじゃないでしょ!」
「だって、つけなきゃ浮くじゃん…」
「私、一回つけた後ポケットにそっとしまったわよぉ」
「そうか、その手があったか…」
「あんたねぇ…」
「丁度いい。お三方のご紹介をしたかったところです」

気がつくと、円形に避けられた三人の周囲。朔夜の顔色を窺っていて気づかなかったが、すぐそばに滝川が立っていた。そのまま三人に、「来なさい」と言ってまたステージの方へ向かった。三人はしぶしぶその後を追う。三人が通る周囲に一年生の人垣が出来る。珍しいものを、恐ろしいものを見る目だ。
慣れている。そんな目には慣れている。三人は自分達に言い聞かせた。

「今年の矯正0、三人です」

壇上で固まったまま離れない三人を手のひらで指して、上級生の方へ紹介した。
先程までの静けさとは正反対に、一気に歓声が上がった。

「うっひょ、噂の三人じゃん!」
「やっぱ、美人でカリスマのある人って霊力も高いのね!」
「くららちゃん可愛いー!」
「朔夜くん大丈夫ー!?」
「零威ちゃん俺がついてるよー!」

一年の反応とは正反対に、ステージに群がり始める上級生。それを一年生はどうしていいのか見つめている。

「彼らは何の補助装置もなく、幽霊を見ることが出来る人たちです」

今度は一年生に向かって、滝川が言った。

「霊力が桁外れというところ以外あなた方と何の差もありません。ただの高校生です。そして、霊力があるというのはこの学園では当たり前のこと。あなた方にも霊力があるからこの学園への入学を許可されたのです。なんのために全員面接して、幽霊と生活できるか聞いたと思っているんですか…人を色眼鏡で見るのはおやめなさい」

滝川にそういわれて、殆どの生徒がはっとした。
確かに、このリストバンドは『補助装置』と呼ばれていた。
ということは、自分の中に補助すべき何かがあったというわけだ。
面接での話は全員が冗談だと思っていたようだが、そう思うとなんだか自分の中の力や幽霊が恐ろしいという気持ちは少しずつ萎えていった。三人に関してはまだ恐ろしさはあるが。

たんに幽霊が見えるというだけではないか、と上級生の誰かが言い出した。



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