6/20

前方から回ってきたのは、七色に彩られたリストバンドだった。

「なにこれ」
「リストバンドだろ」
「なんでリストバンドつけないといけないの」

七色のストライプはお世辞にもおしゃれとはいいがたい。
赤、紫、橙、緑、青、黒、白。虹の色とは思えない。何なのだろう。おまけに黄色の立体星型の金属が五つ、等間隔についている。
他の連中にも同じものが回ってきたらしく、全員がいそいそとつけている。しかし、朔夜のクラスは体育館の一番端にあるせいで、それを上級生がつけているか確認はできなかった。どうやら配られたのは一年生だけのようだが、一体なぜだろう。ぐだぐだ言っても始まらないので朔夜も腕を通した。
瞬間、視界が一瞬ぐにゃりと歪み、紫のもやに包まれた。これは、この感触は。


「つけましたね?それではこれより幽霊オリエンテーションを開始します」


滝川がはっきりとそう言った。朔夜はくらくらする頭を押さえた。
ほんの一瞬だったが、これはリミッターがはずれた瞬間の感覚だ。
そう、すなわち、幽霊を見ている『視霊力』のベクトルが全開になった状態。リストバンドの正体が分かった。今にも倒れこみそうな朔夜を矢野と唐沢が気遣っているが、一瞬のことだったのですぐに立ち直った。おそらく彼女ら二人も同じ目にあっているだろう。長時間この状態は危ないが、オリエンテーションの間くらいは大丈夫だろう、幽霊さえ見なければ直接的害は無い。

「幽霊…?幽霊っつった、今」
「言ったよな。幽霊オリエンテーションって…」

周囲からぼそぼそと声がする。
朔夜もその単語が気になっていた。確か無償措置条件は、『三日目まで幽霊をつれてこないこと』。もしかしたら、昨日昼間に話したとおり、このオリエンテーションは幽霊に関するとことなのか?

「入学前の面接で、一年生皆さんに訊きましたね。高校生活を幽霊と送ることなっても大丈夫か、と」

滝川はまたはっきりそういった。一年生の間から一瞬声が消える。

「確かに訊かれた…貴方も?」
「私もよ。あなたも?」
「ああ、俺も訊かれた」
「そして、諸君は「イエス」と言った。だからこの学園に入学することを許されました」

滝川の台詞が意味深過ぎて、皆、何をどう捕らえたらいいのかわかっていない。しかし、一年生三人はなんとなく言いたいことが分かった。でなければ霊力が強い人間を無償措置で入学などさせるわけがないからだ。


「諸君にはこれから三年間、幽霊と共に学園生活を送っていただきます」


滝川が当たり前のようにすっぱりと言い切った。
体育館中が静まり返る。ぽかんとする一年生。笑いを押し殺している上級生。

「今あなた方にお配りしたのは、『移動式視霊力増幅結界』です。つまり、幽霊が見えるようになる補助器具ですね。あなた方の霊力増幅値が分からなかったので例年使われている矯正5のものをお配りしました。おそらく矯正0の方は霊力開放され、黄泉状態になっていると思いますが、これから登場する幽霊を見て気分が悪いようでしたら外してください」

そう、朔夜は既に黄泉状態だ。黄泉とは特定の触覚の霊力がリミッターを越えてかなり上位の値にいたる状態だ。つまり、今の朔夜は幽霊が異様に見える、ということだ。普段、低級霊や霊力の低い浮遊霊などが見えないのは視霊力にリミッターがかかっているからだ。黄泉状態の今ならどんな幽霊も見えるが、体育館の中には街にうごめいているような霊の類はまったく見えなかった。黄泉状態で全く見えないと言う事は本当にいないのだろう。そしてもうひとつ、指令力黄泉状態には弊害がある。




[ 41/55 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
メインへ
TOP



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -