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「あちゃ、そうか、早く来てもクラスが離れてるから一緒になれないのか」

ほぼ一番乗りで体育館に駆け込んだ朔夜は、あちこち見回してようやく気付いた。並び方は適当でもクラスごとに一列に整列するのだから、確かに隣り合わせになる機会はない。
ちぇっと舌打ちして朔夜は一番前のステージに片腕を預けた。ジーンズのウエストに親指を突っ込み腰に手を当てるのが彼の癖だ。足を緩く組み、退屈そうに欠伸をする姿が絵になっている。
後から後からやってくる生徒達が、朔夜の様子を見て女子はキャーキャー男子はギリギリしながら見ている。

「皇くん、整列なさい」

壇上から低い声が降ってきた。
驚いて顔を上げると、壇上から口許に扇子を充てた初老の紳士が朔夜を見下ろしていた。見覚えのある顔だ。確か授業料無償措置の面接で見た顔だ。名前が思い出せなかったので、もやもやした気分のまま朔夜は短く返事してクラスメイトの並ぶ列に向かった。

「滝川先生今日も機嫌悪そうだな…」

整列しようと人並みを掻き分けてクラスメイトが並んでいる中間地点まで行くと、前後は矢野と唐沢に挟まれる形になった。滝川、そうだ、確か教頭の滝川だった。もやもやは吹っ飛んだが、教頭に注意されたというマイナスポイントが朔夜を苛んだ。しかし、機嫌が悪いと言った矢野は八重歯を出してにこにこしている。どうやら機嫌は悪くても生徒を頭ごなしに糾弾するような先生ではないようだ。なぜ教師のことをそこまで知っているのか謎だったが、よく考えてみたらこいつは新聞部だ。どこから情報を仕入れてきてもおかしくない。




五分ほど経つと、始業のチャイムが鳴った。
全校生徒は既に体育館に集まっていたが、左右をきょろきょろ見ても零威と鞍羅の姿は見えなかった。
チャイムが鳴り終わると同時に前方ステージの中央に滝川が立った。扇子を持った手は後ろでに組み、直立している。そして口を開いた。

「本日は特別オリエンテーションを行います。説明中は何があっても絶対に体育館から出しませんから、覚悟しておくように。一年生は全員揃っているのは確認できましたね、先生方」

マイクなしでも良く響く低い声だった。まるで体育館中が彼の声に共鳴してどこにいてもはっきり聞くことが出来る、そんな声だった。
滝川にチェックを問われた一年の担任、副担任は、ステージを仰いで全員頷いた。滝川は満足そうに頷き返すと、また正面を見据えた。

「本日は理事長、校長先生が不在のため、わたくし滝川が司会を勤めさせていただきます」

朔夜は落ち着かなかった。なんだかろくでもない予感がした。
落ち着かないのはそのせいだけではない。背後にいつもくっついている二人の存在が無いからだ。
昨日、今日の朝はそれぞれの幽霊をつれて集合する約束をした。しかし、家に帰ってみるとその二人の幽霊が「明日は朔夜が出てから行く」と言い出したのだ。二人に聞いてみると、二人も同じことを言われたらしく、今朝は一人も幽霊を連れてくることはなかった。
つまり、幽霊が見当たらないという違和感は今日もある。
しかし、違和感だけではなかった。
今日は何かしらの気配を感じる。
幽霊を連れていないことで鋭くなった感覚が、この学園内に幽霊の存在を感じ取っていた。それがまた朔夜が落ち着かない理由のひとつでもあった。おそらく零威、鞍羅も感じているだろう。

「それでは新一年生はこれを手首につけてください」

朔夜の感覚集中は途中で途切れた。どこに幽霊がいるか探していたのだが、滝川の声はそれを許さない調子だった。




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