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どうやら矢野は写真部と敵対する気は毛頭無いようだった。今にも殴りかからんばかりに興奮した結城の両腕をつかんで止め、翠に一礼した。そのまま首根っこをつかみなおすと、まだ何か叫んでいる結城を引きずって去っていってしまった。
周囲には口論に見入っている三人と、矢野に感心する翠、新聞片手の複数の生徒達が固まっていた。

微妙な空気が流れる場所に校門の向こうから色黒の細身の男が現れた。背は松本ほどだろうか。上下揃いの安っぽいジャージ、体育教師のようだった。こんなことはいつもの光景らしく、顔はにっこりと笑んだまま言った。

「お前らまとめて遅刻にするか?」
「うわ、三村だ!やべぇ!」
「あ、もうこんな時間じゃん!」

悲鳴が上がって上級生が校門に雪崩れ込む脇で、朔夜は携帯を取り出して時間を確認する。ホームルーム開始の五分前だ。
余裕を持って出てきたはずが妙な小競り合いに巻き込まれてこの時間だ。朔夜は、翠に、話は放課後しましょう、と告げて零威と鞍羅の腕をつかんで校門に駆け込んだ。

「ちょ、ちょっと、何処行くのよ」
「もちろん君たちを無事に教室まで送り届けるに決まってるじゃないか」
「教室までエスコート!?」
「そういうこと」
「ちょっと、あたしはいいわよ!」
「だめ、俺がしたいの」

下駄箱に駆け込むと、三人は三様の下駄箱で靴を履き替えた。
それを見計らって朔夜はまた二人の手をつかむと、廊下を抜けて自分の教室の隣の教室の隣に設置された階段を二階に駆け上がった。

「ありがとぉ、さっきー。教室エスコートなんて初めて、嬉しいわ」
「じゃあ、雰囲気出すために跪いてこう、かな」

鞍羅の教室の入り口で、教室中の殆どの生徒が集まった目の前で、朔夜は鞍羅に向かって跪いた。そして、その手を取るとにっこり笑って言った。

「また、後でお会いしましょう。よい一日を」
「きゃあああああ、私感激して泣いちゃう〜!」
「お望みとあらば毎日」
「約束、絶対約束よ!」
「じゃあ、次零威ちゃんね」
「いいったら!」
「だめ。くららもやったんだから零威ちゃんも」

朔夜は頑なに譲らなかったが、あと三分しかない。自分など見送っていたら朔夜が遅刻してしまう。それでも鞍羅の教室と二つしか離れていないこともあって、零威も教室の目の前で朔夜にかしずかれて「よい、一日を」と満面の笑みで送られたのだった。
二人が教室に入っていくと、クラス中の女子が奇声を上げてなだれてきたのは言うまでもない。




「皇、今朝は悪かったな、うちの部長が」
教室に着いてホームルームが終わったあとの休み時間。矢野と唐沢が同時に声を掛けてきた。

「うちの部長?矢野はわかるけど唐沢は?」
「俺、写真部入ったんだ。だからみどり先輩はうちの部長」
「へぇ…どうでもいいけど、犬猿の仲みたいだね、新聞部と写真部。お前らも犬猿になっちゃうの?」
「ならねーよ、俺達は親友だもんな」
「双方言ってる意味が分かってるから、俺達が和解させようってはなしてんのさ」

唐沢はにっこり笑ってそういった。細い目がさらに細くなる。矢野もその隣でにやにやしている。今から和解の時が楽しみでしょうがないと言った様子だ。この二人なら簡単に出来そうな気がする。と思ったのは口に出さないでおいた。
なぜなら次は移動教室。しかも体育館で全校集会。急いでいたからだ。
中学時代のように整列して移動なんてことはしない。各自が体育館に集合して勝手に並んでいればいいのだ。早く行けば零威と鞍羅と会うことが出来るかもしれない。朔夜はふたりに、がんばれよ、と言って席を立った。




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