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男は腕組みしたまま嬉しそうに言った。誰かと尋ねられたのがよほど嬉しかった様子だ。私服の腕に緑色の腕章が付けられていた。新聞部部長と書かれているようだ。翠は苦虫を噛み潰したような顔で結城にじりじりと歩み寄った。

「あらぁ、嘘八百を並べることしか出来ない新聞部のみなさん、ごきげんよう」
「ジャーナリズムの神聖さを理解できない年中キャピキャピ発情部の部長か」
「なんですって!?美しいもの美しいまま残す、その精神を理解できない貴方に言われたくなくってよ」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてくださいよ」

取り巻きの一人が一歩前に出た。

「矢野」
「よう、皇。おはよう」
「お前、新聞部入ったのか」
「ああ、その記事の写真持ってったらすんなり入部。感謝してるぜ、皇」

この写真を撮ったのは矢野だったのか。お忘れかもしれないが、零威の教室まで朔夜を引きずっていったあと失言で女子に八つ裂きにされたアホ二人の一人だ。
朔夜とへらへら話をしている矢野を尻目に新聞部部長と写真部部長の小競り合いはヒートアップしている。矢野以外の二人の取り巻きは結城が正しいと言いたげに結城の台詞に頷いている。

「静物には情報が伴ってこそ美しい真実の姿になるのだ」
「静物はそれを捕らえた瞬間こそ最大限に美しいのよ!」
「貴様とは永遠に理解し合えんな」
「したいとも思いませんわ。失礼」

そういって翠は三人の方に戻ってきた。
先ほど飛ばしあっていたガンなどなりを潜め、三人に声を掛けてきたときと同じ輝く笑顔でカメラを構えている。

「ほったらかしちゃってごめんなさいね。あいつとは話すだけ時間の無駄だわ。私は貴方達を撮って、その魅力を学園に広めたいの。あんな影から美しくも無い写真を撮ってカメラを汚すような連中とは違うの。協力してくれないかしら?」
「もちろん謝礼は出ますよねぇ」

鞍羅が間髪いれずに言った。二人はびっくりして鞍羅を見る。
鞍羅の目が輝いている。

「私、中等部時代からブロマイドは利益の二割を貰って撮ってもらうことにしてるんですぅ」
「あらぁ、もちろん謝礼はするわよ。そうねえ、こっちで用意した衣装やポージングもお願いしちゃうから…二割と言わず三割でいかが?」
「いくらでも撮ってください!」
「くららが身を売った!」
「守銭奴とでも何でも呼んで頂戴!世の中はお金よ!」
「こういう子だったのね…」
「貴方達も、部活始めたらバイトする暇なんてなくなるんじゃなくて?いい収入源になると思うけど?」
「ごくり…」

その背後で結城が鼻で笑う声が聞こえた。翠が素早く振り返る。

「金で美しさとやらを買うのか?真実の美が何か本当に理解しているのやら」
「これは報酬という名のお礼よ。相互で素晴らしい作品が撮れればそれは私だけの仕事ではないわ。被写体に謝礼もしないで影でこそこそ写真撮って醜い記事と合体させる貴方達の手法が美しいとでも?」
「なんだと、貴様、言わせておけば…俺の書く文章の何処が醜いと言う!」
「結城先輩、落ち着いてください。栗原先輩の言うことも先輩の言うことも正しいです。折り合いつけて行きましょう。少なくともこんな生徒の目の前で言い争いなんかしたら、食って掛かった先輩の方が悪者ですよ」
「む…」




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