12/12

「じゃあ、俺が零威ちゃんのファンクラブ作っちゃおうかな」

鼻をさすりながら朔夜はにっこりと零威に笑いかけた。零威はものすごいスピードで朔夜を仰ぐ。朔夜を挟んで反対側で、鞍羅も、それは名案、と言いたげに目を輝かせた。

「私、入るわ〜!」
「よっしゃ、じゃあくららは会員番号二番!」
「あんた達、脳味噌腐ってんの!?」
「いいじゃん、俺達個人的に零威ちゃんの事が好きってことで」
「そうよぉ、零威ちゃんを大好きな人が少なくとも二人いるって事実よぉ」
「恵さんも入る?」
「私はまだ今日会ったばかりで、零威ちゃんのことよく知らないからまだ止めておく」
「俺なんかまだ三回しか会ってないよ!」
「私なんて二回よ!」

二人は満足そうに顔を見合わせて微笑んでいる。
自分は大人の中で成長してきて尚、とっつきにくいと言われ続けてきた。物腰がキツく、言葉にも皮肉ったような刺がある。よほど話しかけたり接しにくいのだろうと自分自身でよく解っていた。それを覚悟して高校に行く事を決意した。
しかしこの二人は(特に朔夜は)、最初の頃のクラスメイトの様に物怖じすることもなく零威と言う人間になつき、尚且つ好きだと言う。
零威には経験したことのないものだった。

「…あんた達なら許すわ」
「へ?」
「あんた達があたしのファンだって言うなら良いって言ったの。…あたし、あんまり同い年の子とか話したことないし…なんであんた達に好かれるのかも意味わからないけど…好きなら好きにすれば!」

零威の頬が赤く染まって見えたのは、夕日のせいだけではないはずだ。三人はぽかんとして零威を見ていたが、すぐに恵が口を開いた。

「前言撤回。私も入れて頂戴」
「恵さん!?」
「そんな可愛い零威ちゃん見せられちゃったり、好きにならざるを得ないわ。あと、二人のファンクラブにも入るからね」
「俺にはファンクラブ出来ないよ」
「ふふふ…私は知っているのよ」
「何を?」
「ナ・イ・シ・ョ」

朔夜が問い詰めようと二人の肩から腕を離した途端、遠くから列車の車輪がレールを滑る耳が痛くなるような音がした。
二両編成の田舎列車が無人駅のホームに滑り込んでくると、待ち構えていた上級生達が慣れた手つきで扉をこじ開け、入っていた。
朔夜達も後に続く。しかし、座席は埋まりきっていて、立って居るしかなかった。立ち話が続いたのは言うまでもない。


最寄りの駅に到着し、蜘蛛の子を散らすように人が降りていく。駅員は定期を見たり、切符を受け取ったり、必死だ。それを尻目に駅から出ると、四人はまた顔を見合わせた。

「明日みんなに自慢しちゃお」
「変なやつ増やさないでよ」
「大丈夫、大丈夫。俺達だけでひっそりやるからさ」
「約束よ」
「うん、指切り」

そう言って差し出された朔夜の小指に、零威は自分の小指を絡めた。

「ゆびきりげんまん嘘ついたら指一本へーし折る」
「何それ怖い!」
「こんくらい覚悟なさいよ」
「じゃあ、零威ちゃんに迷惑行為するようなクラブ員が居たら指一本へし折るって掟作らないとね」

朔夜がいたずらっ子のように笑った。それを見ていると零威の頬も自然と弛む。指を絡めた手やわ朔夜の反対が包み込んだ。筋張った長い指、暖かい手の平、長めに切り揃えられた形の良い爪、細い指関節。そんなものに零威はまた不覚にもどきっとした。

「明日、お弁当楽しみにしてるよ」
「え?あ、うん」
「くららもね」
「うん、楽しみにしててぇ」

朔夜の手はすぐに零威から離れ、鞍羅の髪をふわりと撫でた。鞍羅はくすぐったそうに愛らしく笑った。

「じゃあ、私と鞍羅、あっちだから」
「俺向こう」
「あたしあっち」
「女の子は気を付けて帰るんだよー。明日の朝は幽霊連れてここ集合ね!」
「はいはい」

後ろ手に手を振りながら零威は歩き出した。
初めて会った瞬間から何かが違うと感じていた。何かが変わると感じていた。それは現実になるかもしれない。

もう三人の喧騒も聞こえなくなった場所で、彼女は空を仰いだ。

「…明日のお弁当、がんばろ」




[ 35/55 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
メインへ
TOP



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -