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二人がぎくっとしたのを鞍羅は見過ごさなかった。可愛らしい顔を膨れっ面にして文句を並べている。

「悪かったってば、明日は誘うから。ね?」
「約束よ〜!」
「さっきーのかなりデカイからビックリすると思うわよ」
「え?」
「おまけに早いし」
「たははー、実はあれっぽっちじゃ満足してないんだけどねー」
「あんた脳味噌腐ってんの!?」
「…お弁当の話よねぇ?」
「そうよ、こいつの弁当めっちゃでかいの!食べるのも異様に早いのよ」
「早食いのせいか食った気がしなくてね」
「下ネタが始まったのかと思ったわぁ…」
「主語がないとびっくりするわね」

鞍羅が胸を撫で下ろし、恵が苦笑した。零威は失言に気付いてはっとして周りを見た。周囲は一斉に視線をそらした。なんてことだ、死にたい。鞍羅はそんな雰囲気を物ともせず、しばらく考えてから閃いたように目を輝かせた。

「さっきー、お弁当足りないなら私が作ってあげようかぁ?」
「え?」
「私、中等部の頃からお弁当自分で作ってたの。二人分なら作り甲斐があるわぁ」
「ちょ、手料理とか本気!?俺のために!?君女神!?」
「興奮し過ぎ、馬鹿」
「くらら、ありがとう〜」
「やぁだ、さっきー、こんな人前で〜」

朔夜は手作りお弁当に完全に食いついている。目はきらきらと輝き、両手を握りしめて鞍羅を見詰めている。零威はそのこめかみを指で弾いたが、そんなことで朔夜の思考は戻ってこない。朔夜は嬉しさ余って鞍羅を抱きすくめた。鞍羅は恥ずかしそうに苦笑している。周囲の男共から鮮明な舌打ちが聞こえてきたが、そんなことはまるで気にしない。

「…そんなに手作りお弁当が嬉しいの?」
「当たり前じゃないか!女の子にお弁当作ってもらうなんて男の夢だよ!」
「…じゃあ、あたしも作ってくる」
「え?」

朔夜はびっくりして零威の方を向く。鞍羅も恵もびっくりして零威を見た。零威は顔を真っ赤にして、うつむいている。

「…何よ、嬉しくないの?」
「…嬉しすぎてネジ飛んだ」
「なにそれ」
「零威ちゃーん!」
「ちょっ、あんた脳味噌腐ってんの!?」

朔夜は鞍羅を抱いた腕と反対の腕で零威を抱き寄せた。零威は不平を垂れたが引き剥がす様子は見られない。ぐっと近付いた顔を背けるが、朔夜はその後頭部に頬擦りした。その様子を恵がにやにやと見ている。

「さっきー、両手に花ね」
「恵さんも抱き締めてほしい?」
「おバカね、両手一杯でしょ」
「だって、俺のために二人がお弁当作ってくれるなんて…嬉しくて」
「さっきー、ほんと命知らずよね、周りの視線気にならないの?」
「?」

恵に言われてようやく気付いた。刺さるような視線。きょろきょろと辺りを見ると男共のみならず女子からも射るような視線が注がれている。なんの事やら解らなかったが、恵が説明してくれた。

「あなた達三人、入学式の日から注目の的よ」
「俺達が?」
「そうよ。くららなんて中等部からファンクラブあるし。二人に出来るのも時間の問題じゃない?男の子の視線はさっきーに、女の子の視線は零威ちゃんとくららに突き刺さってるし」

不特定多数の視線は痛い。顔の魔力とはそれほどまでなのか。中身も知らずに惚れられる程強大とは聞いていたが、これほどまでとは。鞍羅はわかるが自分と朔夜は解せない。朔夜など女顔なだけだと思うが…

「針のやしろな気がする」
「零威ちゃん、針のむしろだよ」

呟いた台詞に朔夜が間髪入れずつっこんだ。零威ははっとして朔夜の方を向く。人畜無害な笑顔が小馬鹿にしている笑顔に見えて抱えられている腕を振り払ってしまった。

「言葉のあしよ!」
「言葉のあや、ね」
「〜〜〜〜!」
「いやぁ、でも俺モテ期来たってことかな。今まで…」
「あんたはモテてた事実に気付いてなかっただけでしょ!」

恥ずかしさも相まって零威は朔夜の顔面に小突く程度に裏拳をかました。




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