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「ずっと女の子の味方でいるよ」

朔夜はきっぱりと言った。
教室中の生徒の目が点になった。零威は思わず眉をひそめた。

「は?」
「痩せても太っても、俺は一生女の子の味方だよ!零威ちゃんありがとう、目が覚めた!」
「女の子の…味方?」
「うん!」

朔夜は先程にも増した真剣な瞳でうなずいた。そう言えばこいつがへこんでいたいたのは女の子の敵と言われたことに関してだった。特に痩せていると言う点に対しては落ち込んでいなかったのだ。たしかに終始一貫しているが、多少脇道にそれたみなとしてはその発言を理解するのに時間がかかった。

「…おい皇ィ、それはねーだろ」
「へ?」
「好きって言われたら、『俺も好きだよ』だろ」
「今のは無いわ…」
「無いわね…」

我に返ったクラスメイト達が口々に朔夜を責める。朔夜当人はきょとんとしている。またわかってないパターンだ。自分が何か失言をしたのかあたふたしはじめた。

「俺、変なこと言ったかな零威ちゃん?」
「変なことだけど変じゃないって言うか…」
「零威ちゃんは痩せてても女の子の味方で有り続ける俺が好きなんだよね?ありのままってそう言うことじゃないの?」
「そう言う事だけど…流れ的には違う意味で捉えてもおかしくなかったって言うか…」

ムードに流されない奴め。一瞬でもときめいてしまった自分が憎い。この神経鈍麻男に何を期待していたのか。いや期待などしていない、そもそも好きと言うのはそう言う意味ではない。冷静に自分と向き合うと、恥ずかしさよりバカらしさが勝った。

「あたしも目が覚めたわ…あんたに普通の流れを求めたあたし達がバカだったのよ」
「流れ?」
「さっきー空気読みなよ…」
「今のは告白の流れだったでしょ」
「告白?」
「その子の事好きなんじゃないの!?」
「好きだよ」
「初めて出会った時からドキドキするんじゃないの!?」
「ドキドキだよ」
「それって愛じゃないの!?」
「愛?」

唐澤が叫ぶと朔夜は不思議そうに首をかしげた。愛、と言われると困る。まるでわからない。確かに『愛らしい』とは思うがそれとはニュアンスが違う気がする。恋愛に奥手とかもはやそう言う問題ではない。朔夜は真剣に悩み込んだ。それを見て周囲はため息をつく。

「もういいよ、皇」
「え?でも…」
「考えてもわかんないでしょ。あんたバカなんだから」
「れ、零威ちゃんまで…」
「過ぎたことうだうだ言う男は嫌いよ」
「え!?す、すみません、もう言いません」
「…あの二人は好いた腫れたじゃなくて…」
「お笑いコンビね…」

零威は嫌な空気を吹き飛ばすようにため息をついた。朔夜の周りにいた連中も肩を落として散っていった。貴重な時間を無駄にした気分だ。零威は朔夜に背を向けると、中庭行くわよ、と言って教室から大股で出ていってしまった。白夜がそれを追う。恵はそれを見送ったあと朔夜を振り返った。まったく、と言う目配せをすると朔夜はしばらくきょとんとしていた。早く行きなさい、と言う合図で我に返り、減りに減った弁当を抱えると、零威と白夜の後を追った。





「二人ともずるいぃ〜」
「何が?」

一時間に一本の電車はやたらと混む。
先輩後輩男女友達関係なく二両の列車に押し込められる。昼終わりのテスト日程だったため、空くまで待とうと夕方まで時間を潰して無人駅で待っている最中に、鞍羅に声を掛けられた。
みんな同じことを考えるのか、待っている人数は決して少なくなかったが鞍羅はめざとく三人を見つけたらしい。
朔夜、零威、恵の三人だ。
白夜は自転車通学だったので駅の脇で別れた。
そして驚くべき事に鞍羅は恵と顔見知りだった。中学時代、鞍羅の所属していた服飾部と恵の所属していた服飾部は交流があったらしい。世間は狭いものだ。

「なんで私も誘ってくれなかったのっ、みんなだけでお弁当食べるなんてずるいぃ〜!しかも二日も!」
「あぁ、そう言うこと。だって教室知らなかったんだもん」
「に組!私、に組!えぇ〜ん、ひどぉい、私の事なんて忘れてたんでしょぉ〜」




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