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女子の声に混じって情けない朔夜の声が聞こえてきた。覇気の無い悲しげな声だ。周りがその声に詰まり、零威達三人はこそこそと黒山の人だかりに近づいた。人の間から覗くと、机に山となったご飯とおかずを力なく貪る朔夜が見えた。箸はのろのろと動いている。

「なんでそんなへこんでるの?」

零威が小さい声で話を差し込んだ。クラスメイトの視線が一気に零威に向く。見知らぬ顔の存在にみなビックリして言葉が出ない。朔夜だけ気づかずにもくもくと口を動かしている。

「零威ちゃんに言われたんだ…」
「何を?」
「女の子の敵よって…」

それが原因か。零威はうなだれた。教室のあちこちからため息が聞こえた。もっとこう痴情のもつれ的な言葉を想像していたのに、がっかりにもほどがある。しかし朔夜には重大なことらしい。

「俺が…俺が悪いんだ」
「さっきーは悪くないわよ、あたしが動揺して…」
「ガリガリの俺が悪いんだよ!食って食って食いまくってブクブクに太ってやる!」
「ちょ、さっきー!?」

言うなり朔夜は食べるペースが格段に早くなった。のどに詰まらせないか心配になるくらいガツガツ食べている。どんどん減っていく食べ物の山に零威は言葉を失った。たった一言でそんなに傷付けてしまったのか。反省する零威以外の生徒はそんな言葉で傷つく方がどうかしていると思った。励まそうとした自分達がバカみたいだ。

「やめろよ皇!お前が太ったって女子が痩せるわけじゃねーんだぞ!」

矢野が見かねて叫んだ。その言葉に女子が即座に反応する。矢野を睨み付けじりじりと包囲する。失言を取り消す間もなく矢野は八つ裂きにされた。人が引いて朔夜に近づけるようになったので、零威は朔夜の隣で必死になだめ始めた。

「さっきー、あれは失言だったわ。あたし動揺して訳のわからないこと口走ったの。女の子大好きなあんたが女の子の敵なわけないじゃない。だから暴食はやめて」
「れ、零威ちゃん…」

朔夜はようやく零威に気づいて箸を止めた。食料は当初の五分の一も残っていない。いったいどんなペースで掻き込むとそうなるのか。零威は気にもしないで朔夜に言う。

「さっきーが気にしてる細いことに関してじゃなくてね、抱きつかれたことにビックリしたの。それでわけのわからないこと叫んだらそんなに…そんなに傷付くとは思わなかったの。ごめんなさい」
「零威ちゃん…いや、いいんだよ、本当のことだもの。俺が胸板薄いのも首細いのも貧相なのも事実だもん。たまに折れるんじゃないか心配になるし、実際すぐ腰傷めるし…零威ちゃんが謝ること無いんだよ」
「ガリガリでもブクブクでもさっきーはさっきーよ。気にすること無いの」
「零威ちゃん…」

感動的なシーンのはずなのに内容がガリガリだのブクブクだのとはこれいかに。白夜と恵が暖かく見守っているが、詳しく事情を知らないクラスメイトにしたらちんぷんかんぷんだ。

「俺…俺、ガリガリでも良いのかなぁ」
「いいに決まってるじゃない!それに無理して太っても成人病や動脈硬化になるだけよ。私は今のさっきーも、す、好きよ」
「ありがとう零威ちゃんっ!」

零威が顔を真っ赤にして消え入りそうな声でつぶやくと、朔夜は立ち上がって再び零威に抱きついた。教室中から歓声が上がる。野次も飛んでくる。引き剥がすわけにもいかず零威が硬直していると、すぐに朔夜は離れた。肩に手をおいたまま、いつもの輝く笑顔を浮かべている。

「そうだね、今のままが一番だよね」
「そ、そうよ。ありのままが一番」
「零威ちゃん、俺、俺ずっと…」
「え?」

ドキッとした。好きよと言う単語にあてられたのか。朔夜は真剣な目で零威の目を見つめている。ずっとって、一昨日会ったばかりではないか、いったい何を言うのだ。教室が静寂に閉ざされる。いきなり告白か?なぜそんな流れに?各々が疑問を浮かべる間もなく朔夜は言い放った。





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