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あれだけの食べ物が一体どんな圧縮率であの細い体に入るのだろう。そして連れていかれてしまったが、昨日の食事時の嬉しそうな顔が零威の脳裏に蘇った。つい断ってしまったが、最後まで元気ないだのと一応心配してくれていた。さっきまで自分がうなだれていたくせに。本当に自分に会って、抱きついて元気が出たのか。そう思うとくすぐったい気持ちになった。

「零威ちゃん、ほんとにご飯食べないの?」
「え?」
「さっきー、昨日零威ちゃんとおしゃべりしてご飯食べてると嬉しそうだった。今日も一緒に食べたいんじゃないかなぁ」
「…そうね」

あれだけなついてくれているのに体重ごときで邪険にするのは気が引ける。どうしようか迷ったが、白夜の一言で心が決まった。細いならば食わせれば良いのだ。現に太ったと言っていたし、太らせてしまえば少しは男らしくなるかもしれない。それには真理達に断りを入れなければならない。教室の方を向くと、何も言わないのに少女達はうなずいて手を振ってくれた。

「ごめんね、また今度」
「大丈夫よ、私達も気になるもの。落ち込んでたんでしょ?零威ちゃんが元気付けてあげるのが一番よ」
「飯くらいいつでも食えるよ、気にすんな」
「ありがとう。えっと…恵さん?せっかく連れてきてくれたのに、ごめんね」
「それこそ気にしなくていいわ、なんかほっとけなかっただけだから。あなたに会って元気出たみたいだったし、色んな意味で」

確かに色々な意味で元気は出たかもしれない。うなだれて担がれて来たと思ったら精神的ショックを与えて元気になって担いで帰られてしまった。零威は教室の中に入り弁当箱を掴むとまた外に出た。白夜と恵は既に階段の近くで待っている。

「そういえばさっきー、お弁当持ってなかったわね」
「家に忘れてきたらしいわ。クラスのみんなが少しずつ分けてくれて、山盛りの豪華弁当になってたから持ってこられなかったの」

い組の生徒は仲がいいんだな、うちのクラスも変な団結力があるみたいだけど。そう思ったが零威は口にしなかった。それっきり押し黙る零威に気づいて白夜がころころと笑った。

「入学初日のピリピリしてるときに、さっきーがみんなに声かけて仲良くなっちゃったんだよ」
「さっきーの仕業なの?」
「うん。一人一人質問攻めして、共通点見つけて色んな子を友達にしちゃったの」
「へぇ…そんな事が…」
「だからクラス委員長になってって話したら『めんどくさいから絶対嫌だ』って言い出して…」
「私がなる羽目になったの」

恵は悲劇だと言う口ぶりをしていたが顔は笑っていた。零威のクラスでもクラス委員長を決めたが、大した仕事ではないのだ。イベント毎にクラスを取り仕切る、それが主な仕事だった。提出物は学科の係が集めたりするので肩書きだけと言っても過言ではない。話している間にい組の前に到着した。教室を覗くと、中央あたりの席に人だかりができている。

「ねぇ、さっきー、へ組行ってきたんでしょ?」
「剣さんってそんなに美人なの?」
「なぁ、唐澤達も行ってきたんだろ?噂の剣ってどんなやつよ」
「矢野ぉ、何があってこいつまたへこんでるの?」
「一緒に飯食いたくねぇって言われてへこんでんだよ」
「あんだけの人数の前で抱きついて嫌われたんじゃねーかって心配なんじゃね?」

唐澤と矢野が口々に言うと女子の間から歓声が上がった。どうやら囲まれているのは朔夜のようだ。隙間もないので様子はうかがえないが、話を聞くとまたへこんでいるらしい。

「さっきーだいたーん」
「ねぇねぇ、抱きついた時相手の生気吸ってるってほんと?さっきーに抱きつかれた子ってへろへろになっちゃうのよね」
「それって普通にさっきーがカッコイイからじゃない?」
「もうやめてくれよ…見ての通り俺べこべこにへこんでんだよ…」




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