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朔夜は力一杯零威を抱き締めているが、零威は力一杯引き剥がそうとしている。稀代の女魔闘騎の腕力に敵うはずもなく、朔夜は全力で引き剥がしにかかった零威にひっぺがされてしまった。朔夜もはっと我に返る。すぐさま離れると零威は力の加減を失ってのけぞった。それをまた両手を掴んで朔夜が支える。

「急に離れるんじゃないわよ!こけたらどうすんの!?」
「ご、ごめん零威ちゃん、急に抱きついたり離れたりして」
「あんたに抱きつかれたって何とも感じないから別にいいけど!こけて頭打ったりしたら困るのはあんたでしょ!そしてほんと貧相な体ね!ウエスト細すぎじゃないの!?女の子の敵よっ!」

朔夜は衝撃を受ける。確かに自分は普通の男子より細いかも知れない。だが最近確かに太ったのだ。一応毎日鍛えてるし、一昨日に引き続き貧相と言われたことがショックだった。抱きつかれても何とも思わないと言う方は言われ慣れていた。零威の方はそうは言ったものの、動揺していて意味もわからない論点で朔夜を責める。

「い、一応毎日鍛えてるんだけどな…」
「胸板薄すぎ、首細すぎ、腕も足も華奢!あんた何kgよ!」
「よ、よんじゅな、なっ…でもこれでも太ったんだよ!2kg!」

その場にいた女生徒全員が凍りついた。零威も例外ではない。170cm以上あって47kg?零威はぞっとして自分の腹をつねった。しかも太った?こいつ一体何を言っているのだ?

「う、ウエストは?」
「え?」
「ウエスト何cmってきいてんのよ!」
「わからないですっ!60cmはなかったと…あれ?みんなどうしたの?」

畜生。零威は力尽きた。半径5メートル以内の女子が力尽きた。白夜と恵だけはにこにこしている。朔夜は慌てて零威を助け起こそうとするが、男二人に止められた。

「唐澤、矢野…」
「そっとしておいてやれ…」
「うちの学校の女子が束になってもお前にゃ敵わねぇよ…」
「え、でもみんな元気ない…」
「さっきー…悪いけど帰って。あたし今日はご飯食べない…」
「え!?なんで!?」
「いいから…これ以上へこませないで…」

おどおどする朔夜の両腕を男二人が掴んだ。そのまま来た方向へ踵を返す。残ろうとする朔夜は強制的に引きずられていった。階段を降ろされながら朔夜は「元気出してねー」と叫んでいた。恵と白夜は驚くほどダメージを負っていない。白夜は零威の背中をぽんと叩くと悟ったように言った。

「うちのクラスでも昨日の休み時間に同じことがあってね。クラスの女子みんなへこんだの」
「抱きつかれた女子が悲鳴を上げてね。いや抱きつかれた事にビックリしたんじゃなくて、さっきーの腰の細さにビックリしてね」

恵が遠い目をしながら言った。現実を見つめると発狂しそうなのでわざと遠くを見ているのだ。そしてクラスの女子の間では朔夜の体型について何も語らない、と言う了解ができた。奴は男ではない、女の子だ。そう思うことにしたのだ。

「確かにね、筋肉はあったよ」
「腕も筋肉質だった」
「そして腹筋確認しようとした男子が何人か鼻血吹いたよ」
「鼻血?」
「嫌がってるのを複数人で押さえつけてみたら何か変な気分になったんだって」

い組はそんな男子ばっかりなのか。押さえつけられているさっきーを想像してみると、確かにダン辺りなら鼻血吹いて倒れそうだ。想像した自分に嫌気がさして頭を振って打ち消した。教室の中の女子はへこんで立ち直れず、男子は想像したのか赤くなっている。でも、と白夜は続けた。

「さっきー本人は何一つ理解してないから、放っておいてあげたらいいんじゃないかな。むしろ細いの気にしてるみたいだし」
「太ればいいのよ…昨日だってあんなでかい弁当平らげてたのに…早食いなのに…」
「太りにくい体質なんだって。人の倍は食べるけど太れないって嘆いてたよ」
「わかったわ…さっきーの体重についてはこれ以上考えたくない」
「それがいいよ」



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