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朔夜はその評価にぶーぶーと反論した。自分から女好きと言ってみたり、否定してみたり忙しい奴だ。だが誘いに来てくれたことに零威は心の底で喜びを感じていた。まだクラスのみんなと打ち解けられず、一人寂しく乗りきろうとしていた矢先の出来事だ。部活で一度顔を会わせただけの男が友達を引き連れて来てくれるとは思わなかった。しかも顔見知りを。世の中狭いものだ。

「あの、私のこと白夜って呼んでね」
「あたしのことも零威って呼んでちょうだい。白夜ちゃん」
「何度も訪問しててお友達って言わないの?」
「忙しくて滅多に会えなかったのよ」
「ちゃんとお友達になりたかったから嬉しい。紹介してくれてありがとう、皇くん」
「俺はさっきーでいいよー。気に入ってんだ」
「あたしからもお礼を言うわ。お弁当取ってくるわね」

二人から礼を言われて朔夜は照れている。零威は満足そうに微笑むと教室の中に踵を返した。机の上の弁当に手を伸ばすと、さっきの女子が話しかけてきた。

「剣さんありがとう、ずっと気になってたの」
「噂の元って知ってる?」
「たしかい組の子だったと思うけど…あの、剣さん」
「なぁに?」
「あの、私も零威ちゃんって呼んでいい?私のことも真理って呼んで」
「え?」
「あたし実は同じ中学でね…ずっと前から学校に来ない子が居るって聞いてたの。その子が高校で同じクラスになれたから、お友達になりたかったの…迷惑じゃなかったら」
「ううん、全然迷惑じゃないわ。嬉しい、ありがとう」

零威は入学して初めて満面の笑みを浮かべた。女子…真理も嬉しそうに顔を輝かせている。クラス中の視線が再び零威に注がれる。クールで無表情だと思っていた新しいクラスメイトが本当に嬉しそうに笑っている。無意識に胸に芽生えていた苦手意識などどこかへ飛んで消えていった。男子など見とれてる奴がいる。朔夜もその一人だ。

「今度一緒にお昼食べましょう」
「ええ、楽しみだわ。今日はあのバカと食べるけど」
「皇くん?…ねぇ、今度紹介してくれない?」
「え?」
「さっきの噂もだけど…皇くん入学式から人気の人なの。先輩にも気になってる人がいるみたい。あと、に組の美少女。それから零威ちゃんも」
「私が?」
「うん、美人って評判よ」

零威は絶句した。自分が美人?そんなこと考えたこともなかった。だが目前の少女は嘘を言っている目はしていない。そうか、自分は美人だったのか。だがやはり抵抗がある。

「さっきーも私も普通の顔だと思うけど。とくにさっきーは女顔なだけじゃ…」
「零威ちゃーん、はやくー」
「あ、ごめん、今いく…どこからそう言う噂仕入れるのか知らないけど…根絶できない?」
「根絶って…」
「私達ひっそり学園生活送りたいの。…じゃあ、また後でね」
「うん、行ってらっしゃい」




「…さっきー、あんた人気あるんだって」
「へ?誰に?」
「わかんない。先輩とか女子とか」
「んなバカな!俺がモテたら世界は終わるね!そう言う星の下に生まれてるし」
「さっきー中学の時も人気あったよ?」

中庭で色々な人に囲まれながら三人は弁当を開いていた。商業棟と普通科棟の谷間だ。わりと広い。三人は地面から二段上がったステージのような場所に腰かけている。白夜、朔夜、零威の順だ。おかずのきんぴらを口に運びながらおもむろに白夜が言った。二人の箸は停止する。白夜はもぐもぐとしっかり噛んでから飲み込んだ。確か白夜とは中学は別のはずだ。なぜそんなことを知っている?

「私、噂には疎い方だけど。東都中学の皇って子は人気があるって聞いたことあるよ」
「それマジ?」

零威が信じられないと言った様子で顔をしかめた。こんなバカのどこがいいと言うのか。呪術師と聞いて泣く男だぞ。見たところ一切飾らずへたれな自然体を晒しているだけの男だ。白夜は思い出しながら続けた。朔夜はあきらかに動揺して箸をただ動かしている。

「うん。さっきー美術部だったでしょ?」
「そうだけど…」
「私も美術部だったの。だから出品された絵も見たことあるよ。その時聞いたの。うちの先輩めっちゃカッコイイって」
「別の先輩じゃないの?」
「サクヤセンパイカッコイイっていってたからさっきーのことじゃない?」
「まぁこんな変な名前俺しか居ないと思うけど…でもモテた記憶なんか一度もないよ?」
「簡単な見極め方があるわ。さっきーチョコとかいくつもらってたの?」
「チョコ?」
「バレンタインよ」
「あー…」




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