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「それでね、その男の人達が交互に彼にキスしたらしいの」
「キス!?」

すっとんきょうな声をあげるとクラス中の視線が零威に注がれた。零威は口を押さえて顔を伏せる。その単語が聞こえたのか、入口で朔夜と白夜もビックリしている。

「たぶんその二人なら知ってるけど…見間違いじゃないの?」
「たぶんそうなんだけどどうしてそうなったのか全然わからないのよー!だから噂になってて…確認した方がいいかなって…」
「本人に直接聞いてみるわ…」
「え!?」

女生徒が止める間もなく零威は椅子から立ち上がった。零威が動くと教室中の視線が動く。なんてやりにくい。本人がそこにいるのだから直接聞けばいいのに。そもそも入学式初日からこんな噂が立つなんてどんな情報網があるのだ。学校に行っていなかった零威には、母校が同じ友人など複雑な繋がりははなから考えの中になかった。

「さっきー。ちょっと聞きたいんだけど」
「やぁ、零威ちゃん昨日ぶり!聞きたいことって?」
「あんた入学式の日、ダンくんと松本くんとキスしてたってほんと?」
「は?」

へらへらと零威を出迎えた朔夜の表情が凍りついた。教室中の空気も凍る。単刀直入すぎる。零威の顔もひきつっているが朔夜はプラス真っ青だ。隣の白夜はキョトンとしている。

「だ、誰がそんなデマを…」
「かくかくしかじかで見たって子が居るらしいのよ。デマなの?」
「デマに決まってるじゃないか!何で俺があの二人とキ、キ、キスしなきゃなんないのさ!」
「ホモだから?」
「ちっがぁぁああう!」

朔夜はたまりかねたように叫んだ。何が悲しくて半分ストーカーと化している背後霊とキスしなければならないのか。しかも会って二日目の女の子にいきなりホモ扱いなんて切なすぎる。

「俺は女の子が好きなのっ!可愛い可愛い世界一可愛い生き物、女の子が大好きなの!男には興味ない!」
「じゃあなんでキスしてたの?」
「してないから!身に覚えがない!」
「よく考えてごらんなさいよ、なんかあったんじゃないの?」

朔夜は腕を組んで考え始めた。何か誤解されるようなことしたか、挙動不審な行動はなかったか、思い返してみる。入学式の日、母がどうしてもというので二人を木偶に入れて連れてきた。ダンは白衣のままだし、松本はどう言っても帽子を取らなかったのを覚えている。よもやそこまで注目されていたとは知らなかったが、二人が朔夜のところへ来たと言うなら入学式の前か後だろう。

「あっ」
「何か思い出した?」
「思い出した思い出した!入学式が終わったあと、トイレ行ったんだよ」
「それで?」
「トイレから出てきたらダンくんと松本くんが体育館の前に居たから、校舎から体育館まで繋がってる吹きっさらしの渡り廊下を走ったんだ」
「?それとこれとなんの関係があるのよ」
「そうしたらグラウンドの方から突風が吹いて目の中に砂が入ったから取ってもらってたんだ」

そんなことか…。大方ダンでは眼が悪くて取れなかったから、松本に取ってもらったのだろう。それで交互に…などと不自然な噂になったのだ。零威は胸を撫で下ろした。妙な噂は本人の口によって否定されたのだ。理不尽な糾弾にいつ怒り出しやしないかとひやひやしながら見ていた教室中の生徒が安堵した。

「紛らわしいことしないでよ、みんなその噂知ってるみたいよ」
「え?俺有名人?」
「嫌な意味でね。とんだ誤解だったみたいだけど」
「解けたならいーよ。変な噂が広まったって事は事実もすぐに広まるよ。これだけの人間が聞いてたんだし…」
「あんたポジティブね」
「そんなことより零威ちゃん、お昼一緒に食べようよ!白夜ちゃんも零威ちゃんとお友達になりたいんだって!」
「お、おひさしぶり、剣さん」
「こんにちは、燭さん。2ヶ月ぶりくらいかしら」
「零威ちゃんと中学同じクラスだったんでしょ?聞いたよ」
「あんた早くも女子に手ェ出してんの?」
「違うよ、クラス全員声掛けたけど話が一番合うのが彼女だっただけ」




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