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松本は目を丸くする。

「呪い殺そうとしたって…」
「私の元旦那の妹の子でね。歳は朔夜と六つくらい離れてたかしら。朔夜が百年に一人の男の神降師と知って嫉妬したの」
「弥生さんの甥っ子ですか?」
「そう。あの子が子供の頃はよく遊んでたんだけど…朔夜が小学生の頃にはもう中学生でしょ?呪い以外にも事故に見せかけて殺そうとしたり、色々あったみたいなのよ」
「みたい?」
「朔夜もまだ小さくて何も言わなかったから、私たち大人は気づかなかったの。ただよく怪我したり病気になる子だなって…それくらいに思ってた。でもある日ダンくんが『周平には二度と会わせたらいけない、このままじゃ朔夜は殺される』って言い出して…発覚したのね」

母…弥生は首を振った。なぜもっと早く気づかなかったのか今でも悔やまれる。ダンが気付いてが言い出さなかったら今頃とっくに死んでいたかもしれない。中学生レベルの呪術では死に至る確率は低かったかも知れないが、それ以外でも朔夜の命を危険に晒していたのだ。朔夜さえ居なければ自分が注目される…ただそれだけの理由で。

「先方の親も土下座して謝ってくれたんだけど…そのあとすぐに旦那とは別れたから、もう10年は会ってないわね。そもそも朔夜がおばあちゃんや親に誉められたりちやほやされたりするのが気に入らなかったみたいだから、離れてから呪術は止んだわ。私たちも精一杯朔夜を守ったしね」
「そんな理由で呪い殺そうとするなんて…」

弥生はもう一度首を振った。周平だけが悪いわけではない。もちろん朔夜は完全に悪くないが、大人が早く気付いて止めていれば朔夜の苦痛はずっと少なくて済んだかもしれない。周平もエスカレートすることは無かったかもしれない。気付かれないと言う安心が助長したのだ。

「私たちももっと早く気づけば良かったのよ。あの子周くんに会う前には決まって具合が悪かった。それに事故に遭いそうになった時も決まって周くん達と遊んでるときだった」
「たち?」
「周くんの妹の蓮花ちゃん。見様見真似で呪術を覚えた周くんに荷担してたの。妹の方は遊び半分だったみたいだけどね」
「遊び半分って…」
「そんな事情があって朔夜は本能的に呪術師が苦手なの。…中学生になったあの子に説明した時から、『周平』という単語を口にできなくなった。口にしても失神しちゃうの。余程怖い目に遭ったのね…それに通報した頃かな、ダンくんがあの子に対して愛情を抑制しなくなって、片時もそばを離れなくなったのは…」

ダンの溺愛にも理由があったのか。松本は不謹慎ながら感心した。朔夜がたまらなくいとおしいだけかと思っていたが、そんな出来事があって守ろうという気持ちが先行していたのだ。

「だからあの子の前ではその名前は出さないであげてね」
「はい…気を付けま」
「この根暗馬鹿有害妄想変態野郎ー!」
「な、何!?」

玄関の方から朔夜が叫びながら駆け込んできた。パンツ一丁だ。松本は飛び上がるほど驚いた。

「あの野郎人が失神…なんで失神したか覚えてないけど…失神してる間に服着せ変えてやがった!」
「パジャマ着せようとしたんじゃないの?」
「ピンクのヒラッヒラのドレスは俺の寝巻きじゃない!」
「あら、また朔夜に女装させようとしてたの」
「おちおち気を失ってもいらんねぇ!いつの間に用意してんだあんなもん」

松本は言わなかった。毎晩朔夜が眠ったあとダンが一人でちくちく何かやっているとは。真剣な話を聞いたあとでは落胆も大きい。それに約束したからとは言え余計なことを言ったらまた自分の身に何があるかわからない。

「…ったく明日テストだっつーのに…」
「勉強したの?」
「これから。飯も食い終わってから始めるよ」




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