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「今日は松本くんたちとお風呂に入るんでしょ?洗い物はいいわ」
「………」
「たちじゃないよ、松本くんとだよ」
「………」
「松本くん、ダンくんがなんか訴えてる!怖い!」
「…言わない。スゴいこと考えてるとだけ言っとく」
「何!?なんなの!?」
「僕の口からは発っせない」
「食べないなら片付けちゃうわよ」
「母ちゃん、気にならないの!?息子の貞操の危機だよ!?」
「はいはい、大丈夫よ。ダンくんはそんなことしないから」

母は受け合う様子もなく飯をかっこみ始めた。確かにダンはある一線を超えた事はしてこない。しかしそれ以外はほとんど何でもしてくるのだ。おかげで小学生の頃からいらない言葉を覚えてしまったほどしつこい。朔夜を溺愛してるのは解るが思春期の彼には迷惑極まりない。母はほんとにどうでもいいようで、危機感もなく昔から遊び相手はダンに任せきりだ。朔夜よりよっぽどダンを知ってる風に装う。

「はぁ…もうわかったよ…ダンくんとお風呂入ればいいんでしょ」
「え、ほんとにいいの?朔夜くん?ホントにスゴいこと考えてたよ?」
「邪なこと考えたら木偶のクビ引きちぎる」

こくこくと頷くダンを尻目に朔夜はおかずに箸を伸ばした。朔夜の大好きな唐揚げだ。異様に食べる朔夜のために山と積まれている。ダンや松本はもちろん食べられないが、それを補って余りある程朔夜は食べる。最近太ったのが悩みと言う乙女なことを抜かしているが、食べるのを控えると言うのは難しかった。

「朔夜、お友だちはできたの?」
「あ?ああ、うん。部活は俺と同じようなのが二人と先輩。あとクラスの面子一通りかな」
「あら、神降師が居たの?」
「ううん、魔闘騎と…なんだったかな。霊調官?あと呪術師」
「呪術師?」

母の顔が曇る。まさか息子からその単語が出てくるとは思わなかった。子供の頃に怖い思いをしてからその言葉を口にするのも嫌だったはずだ。だが目の前の息子は意に介す様子もなく箸を口に運んでいる。

「蓮花ちゃんたちと一緒?」
「うん、でも全然怖くないよ。流仙騎と二足のわらじなんだって」
「あんたの口から呪術師って言葉が出てくるとは思わなかったわ」
「飛鳥先輩は蓮ちゃんたちとは違うよ、ちゃんと分別ある人だし」
「あらあら、じゃあもう周くんも大丈夫ね」

途端朔夜は唐揚げを取り落とす。箸を持った右手がガクガクと震えている。顔色は蒼白だ。しまった、と思った。いくら呪術師と言えるようになったとは言え、その名前は禁句だ。

「だ、だ、誰だって?」
「な、なんでもないわ、蓮花ちゃんたちって言ったのよ」
「そ、そ、そうだよね、よもや、し、し、し…」
「言わなくていいわ!お母さんが悪かったから!忘れなさい、忘れなさい!」
「し、し、し、し…しゅう…」

ダンがとなりから朔夜の体を支えた。呟いた瞬間朔夜はテーブルの上に箸と茶碗を落として失神した。そのままダンの腕のなかに倒れる。相変わらずあの名前を発すると拒否反応を起こして気絶する。すぐに眼を覚まし起きた時にはすっかり記憶を抹消しているがしばらく震えが止まらない。

「ごめんなさいね、ダンくん…部屋に寝かせてきてくれるかしら…」

額に手を当ててため息をつく。ダンは頷いて朔夜の体を抱き上げた。松本は驚いて振り向いたまま硬直している。もう一度ため息をつくと、ダンが玄関から朔夜の部屋に渡る音がした。

「松本くんもごめんなさいね、びっくりさせちゃって。貴方の前では失神したのは初めてだったかしら?」
「ええ…朔夜くん、どうしたんですか?失神するほど脅えるなんて…」
「…私があの子の名前を口にしたからよ」
「シュウ…でしたっけ?」
「ええ。周くん…周平くんは朔夜が世界で一番会いたくない人の名前よ」
「周平?」
「子供の頃何度も朔夜を呪い殺そうとした従兄よ」




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