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「申し訳ないが、私は電車の時間があるのでこれで失礼するよ。また後日部室の説明や二年生の紹介をしよう。テストが終わるまでの三日間は活動はないが、部室にたむろしてもらっても構わないよ。私もいるし。ただこの学園のテストは真っ直ぐ帰って勉強した方がいいとレベルだと思うけどね」
「お、脅かしっこ無しですよぅ…」
「更に悪いが今日はそろそろ外に出てもらえるかな。鍵をかけなくてはならないのでね。鍵の場所なんかも後日また教えよう。それを知ったら君達は正式に演劇部の一員だよ。まぁ始まったら忙しくなるから…今のうちに活動の無い日を楽しみたまえ」

飛鳥の号令で全員が外に出た。そう長くはない時間だったが色々あった気がする。初日にしては上出来だだろう。全員揃っての顔合わせはできなかったがそれはお楽しみにしておこう。片倉を除く幽霊どもは混雑した玄関で、塞がった扉をすり抜けて出ようとしてぶち当たっていた。具現化の結界はよほど強いらしい。

「いたたた…そうか具現化してたんだっけ」
「もー、松本くん横着しすぎだよ。だからぶち当たるんだ」
「あんたも顔からダイブしてたでしょうが」
「零威ちゃん、しーっ!」
「さっきー、この紙束忘れないように。君達家は?」
「あ、はい。俺は隣の市です。比奈市」
「あら私もよ」
「私もですぅ」
「おや、偶然じゃないか」
「飛鳥先輩もですか?」
「私は逆だよ、秀田の方だ」

秀田市と比奈市はまるっきり逆方向だ。朔夜たちの住んでいる場所は、県の南部にある。秀田は更に南側、比奈は球磨ヶ根を挟んで北に位置する。ちなみに学園があるのは球磨ヶ根市。球磨ヶ根を跨ぐように南北に電車が走っており、地元の生徒以外は殆どが電車通学だ。この辺では唯一商業科があるので遠方から通う生徒も少なくない。ただ、電車の本数が異様に少ない。一時間に一本が基本、二本あるのは通学時のみだ。

「あ、俺財布と携帯以外教室に置いてきた」
「そう言えば私も」
「あー、私もぉ」
「次からは部室に持ってきたまえ。比奈に行く電車は30分後だよ。駅まで15分だから…時間には気を付けたまえ。じゃあ私はこれで」
「お疲れさまでした」
「はい、お疲れさま。気を付けて帰るんだよ」
「またな」

飛鳥と片倉はそう言って校門の方に駆けていった。部室から離れて行くと片倉の後ろ姿が顕著に変わる。先程まで立っていた足は消え、炎のように燃え上がる。向こうの景色が透けて見える。一年生には姿は変わらず濃く認識できたが、『見えない』人から見たら人が消えたように見えるのだろう。

「結界ってすげーな…」
「鞄取りに行くわよ」
「早くしないと乗り遅れちゃいますぅ」
「あーそうだった!今行く!」

三人は校舎に向かって走り出した。








「母、学校すげーよ」
「商業科目指して良かった?」
「うん、商業科専用の校舎あるんだぜ。簿記やる部屋とかパソコンルーム二つとかあんの」
「そりゃいい設備ね」
「それにさ、部室がまたすげーの」
「部室?」
「うん、入学式行ったとき校門脇に洋館あったじゃん。あれが部室なの」
「あらぁ、広いのね」
「それにさ、結界張ってあるんだって」
「結界?」
「幽霊ども具現化できるんだってよ。透けないし、足は出るし、物にも触れるしすげーの。あんな結界母の実家でしか見たことねーよ」

朔夜は手狭なリビングでクッションを抱えながら母親に話しかけた。母親と話すときは自然と言葉が荒くなる。母は気にする様子もなくリビングの奥にある台所で背を向けて夕飯の支度をしていた。

「そりゃ凄い結界ね。余程強力な術者がいるのね」
「それがさ、部室が出来た頃からあるんだって。そんな強力な結界が何年ももつもんなの?」
「結界の種類にもよるわねぇ…範囲結界は一回張ると長持ちするし」
「へー…俺もまだまだ勉強不足だな」
「台の上拭いてちょうだい。ご飯できたわよ。あと運んで、ご飯盛って」
「はーい。松本くーん、ちょっと手伝ってよー」
「はいはい、今行きますよ」




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