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松本は今日何度目かの歓喜の声を上げた。感情の起伏の激しい男だ。ダンはため息をついている。他の連中もため息をつく。なんて濃い幽霊共だろう。これから苦労しそうだ。

「松本くんの件はどうでもいいとして…そう言えば二年生の先輩いるって言ってましたよね?」
「ひどっ」
「ああ、三人居るよ」
「今日は来ないんですか?もう私たちが来て一時間以上になりますけど」
「今日は二年生は進級テストだから来ないよ。みんな必死で勉強しているはずだ」
「進級テスト?飛鳥先輩は?」
「自慢じゃないけど私は頭は回る方でね。いつもテスト勉強らしい勉強はしないんだ。今回も軽くパスじゃないかな」

零威が素朴な疑問を告げると、飛鳥はにっこり笑いながら自分の頭を指す。そしてその言葉で思い出した。自分達も明日試験があるはずだった。朔夜の顔に焦りが浮かぶ。自慢じゃないが朔夜の頭はそんなに良くない。数学以外で赤点こそ取ったことはないもののテストと聞くと血の気が失せる。単なる拒否反応だ。慌てて零威と鞍羅を見ると平然としている。

「お、俺テストって聞くと具合悪くなるんだよね…」
「テストなんて受けたことないわ」
「え?」
「私、こんな体質だから学校行ってなかったの。一応形は通ったことになってるけど…登校して授業や部活動するのはこれが初めてよ。もちろんテストもね」
「そうだったんだぁ、じゃあ私たちが初めての学友かしら?」
「そうね…」
「零威ちゃんの初めてのお友達の座ゲット!俺だからね!俺が一番の友達だからね!」
「はいはい、そうね」

零威は至極どうでも良さそうに相槌を打った。朔夜はぶーぶー言っている。内心二人の言葉が嬉しかったが顔には出さない。学園生活は素の自分でいくと決めたのに、感情を圧し殺す癖はそう簡単に変えられるものではなかった。学校にも行かずそう言う修行をして来たのだから仕方ない。

「くららは?何処の学校だったの?」
「私は幼稚園からずっとこの学園よ。初等部、中等部、高等部ずっと」
「へぇ、うちのクラス高等部からの子ばっかりだよ」
「何組?」
「い組」
「い組とろ組は商業科だから、受験組ばっかりみたいなのよねぇ。普通科は私みたいな繰り上げ組も多いんだけど」
「エスカレーター式の学園ってこの辺りじゃ珍しいけど…毎年受験組を受け入れるのも珍しいわよね」
「それは我が校の授業料無償措置に発端しているんだよ」

飛鳥の訳知り顔に一年生の目が集中する。幽霊どもは松本以外まったく興味がないようだ。片倉はソファに沈みダンはしつこいほど丁寧に眼鏡を拭いている。ナナはすでに姿が見えなかった。どこへ行ったのか。松本だけが興味津々で話を聞いている。

「無償措置とどんな関係が?」
「知っての通り無償措置は、私たちのような特殊な体質の人間を集めるための方法だよ。何某学園の分派は各都道府県に存在してね、霊感が強かったり幽霊が見えたり…そう言う人間の中では有名なんだ」
「あ、そう言えば母がそんなこと言ってたかも…」
「授業料や備品を無償にすることでそう言う人間を集めやすくしてるんだ。そう言う子は全国で毎年数人見つかる。急に目覚めた子や事故で見えるようになった子もいるからね」
「結構いるもんなんですか?俺たちみたいな…」
「私たちのような触ったり喋ったりできる人間はほんの一握りだよ。この田舎の学園にこれだけの逸材が揃うなんて実に珍しいことなんだ。くららみたいに子供の頃から才を発して見付けられる子供は少ない。そして無償措置の入学生のほとんどは部活に入ることが条件だ」
「部活?」
「そう。毎年割り振りで幾つかの部活に入部することが、無償措置の条件になる」
「朔夜くん達が演劇部指定になったのもその措置の一端なんだね?」
「そうだよ」
「他には?」

松本が口を挟んだ。飛鳥は説明を嫌がりもせず話してくれた。
何某学園の他にも霊感の強い人間を集める学園機関があること、他の学園機関には寮がある施設もあること、そして約束されたからには卒業まで全ての責任を負ってくれること、自分もその措置で入学したこと…エトセトラ。話続けると長くなるので途中で口をつぐんだが、一年生三人よりやはり松本の方が興味津々だった。また今度説明するよ、と話を閉じた。




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