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「彼の研究はこの演劇部の役に立ちそうだね」
「そうですか?」
「そうだよ。私も部室に張られている結界に対しては先輩に聞いただけだし、詳しくは知らないから具現化する以外にどんな力があるのかも未知数だ。それに幽霊に造詣が深くなれば利用する…失礼、働ける場所も広がるだろう」
「言われてみればそうですね…」

飛鳥が感心したように言った。零威が尋ねると思慮深くそう答える。思いがけず誉められたが、ダンは無表情のままだ。対して松本は少し嬉しそうだ。自分が実験されたことが少しは役に立つかもしれない。零威がその表情を見て少し笑う。

「松本くんの苦痛も無意味じゃなかったってことね」
「そうだね、嬉し………え?博士、今ぼそっと何を?」
「どうしたの?」

松本の顔色は一気に悪くなる。聞いてはならないことを聞いてしまった風だ。朔夜が焦った様子で覗き込む。

「そんな……」
「どうしたの松本くん?顔真っ青だよ?」
「………」
「松本くん?」
「…………………………『いや、松本くんにしたことは殆どが拷問だが』…って……ぼそっと……」

その場の空気が一気に重くなった。せっかく飛鳥が作った空気が台無しだ。なぜ入ったばかりの部室で拷問がどうのと話題に上がっているのか。飛鳥も三年間所属しているが、世間話からここまで重い空気になったのは初めてだ。卒業した先輩の背後霊にも学識者はいたが、科学者は居なかった。居たとしてもこんなマッドサイエンティストはいないだろう。

「…松本くん、元気出して」
「やっぱり僕は虫以下なんだ…」
「そんな卑屈になるなよ」
「卑屈にもなるよ…モルモットよりまだ扱いが悪いよ…死んでからもこんな目に遭うなんて…いっそ死ねないこの体がもどかしい…現世に留まってるのがいけないのかな…それとも朔夜くんに憑かせてもらったのが悪かったのかな…」
「松本くん…」
「でも…でも、生きてる頃は負け組で草履虫以下の存在だった僕が、死んでから拾われて、拾ってくれた朔夜くんの役に立てる守護霊になれたんだ。その能力や自信をくれた博士にはやっぱり感謝してるし、尊敬してる」

聞いただけでもおぞましい実験(拷問)を施されていながら、尚も感謝と尊敬の念を抱いているなんて。確かに守護霊なるには能力が必要になる。ダンの実験ははちゃめちゃなものばかりだが、処置を施されて松本は能力を手に入れた。いまではそんじょそこらの霊より霊力は強い。

「悪いのはダンさんなのに…責めこともしないで自分を責めるなんて…なんて健気なの」
「聞いただけでも身の毛がよだつようなことされてるのに…」
「拾われたってことは元は自縛霊だったんだろう。片倉くんもそうだが、自縛霊が守護霊になるには結構な苦労が必要だからね。能力は必要だし霊力は必要だし適性もチェックされるみたいだし…」
「適性?」
「守護霊試験検定共同組合がやってるんだよ。それなりに難しい試験みたいだが…普通の人なら呼び名が変わるくらいしか実感はないね」

自分の守護霊が守護霊にまでなったことがないので零威はよく知らなかった。幽霊のくせに徒党を組んで試験までやっているのか。守護霊試験があることは知っていたが、何が必要なのかは知らなかった。そもそも自分の霊に守護霊になれる器があるとは到底思えない。

「『朔夜がどうしてもと言うなら松本くんには拷も…実験はもうしない』。ひぇ?」
「え?」
「『一通りやりたいことはやったし、これからは『実験』の助手を頼む』。それ、ほほほ、ほんとですか!?」
「知ったその日に実験が終わるなんてつまらないなぁ」
「つまらなくないよ!ちょっとやめてよそういうこと!」
「冗談だよ。ダンくん、これからは松本くんに変なことしちゃダメだよ」
「『どうしても?』」
「どうしても」
「『わかった』。やったぁぁぁあああ!」




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