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飛鳥はやれやれと言った様子で重い腰をあげた。三人の間に割って入ると両手で片倉とダンを制した。今にも掴みかかりそうだったダンが飛鳥を睨む。片倉も飛鳥を見下ろした。

「君たちそのへんにしておきたまえ。さっきーが困っているじゃないか」
「飛鳥…」
「片倉くん、意地になるのはやめたまえ。この様をみていたからダンくんにとってさっきーがどれくらい大切かわかるだろう」
「うぬ…」
「ダンくんもダンくんだ。大切な人を困らせるんじゃないよ。さっきー泣きそうじゃないか」
「………」
「あずがぜんばーい…」
「よしよし、泣くんじゃないよ」

大人げない大人二人に挟まれて朔夜は半泣きだ。激怒したダンをなだめる術はないのかおろおろしているところに救いがあった。飛鳥は意図も簡単に子供じみた争いを解決してしまった。朔夜はたじろいだ片倉の腕を離れて飛鳥の肩口に顔を埋めた。その頭をぽんぽんと叩くと落ち着かせるように静かに言った。

「二人とも言いたいことは?」
「………」
「……すまない、朔夜。少し度が過ぎたようだ…」
「えーん!」
「『泣かないでくれ朔夜、なんでもするから』」

ダンは牙を抜かれた猛獣のように殺気を解いた。片倉もその様子を見てむきになりすぎたと己を恥じた。ダンに対抗するには朔夜をだしにする以外思い付かなかった。自分の敵対心のせいで新入部員を泣かせてしまっている。言わずともダンと同じ気持ちだった。なんでもするから泣き止んでほしい。

「…じゃあ握手して。仲直りして」
「そ、それは…」
「『それはできない』」

顔を伏せたまま朔夜が言うと、どもる片倉を尻目にダンはきっぱりと拒否した。凄く真剣な顔だ。朔夜はばっと顔を上げる。泣いてはいなかったが訴えかけるような眼は二人を責めていた。

「仲直りしないならダンくんなんて嫌いになってやるから!」
「!」

ダンの顔に焦りが浮かぶ。無言のままたじろぐと朔夜は更に言った。

「死ぬまで口聞いてやらないし、存在自体空気扱いするから!」
「『さ、朔夜、それだけは…』」
「嫌なら言うこと聞け!」
「『しかし僕にもプライドと言うものが…』」
「やだやだやだ仲直りしないなら口きかない!」

小学生か。ごねる子供のようにまた顔を背ける。先程までの威勢はどこへ行ったのか、ダンは朔夜の機嫌を取ろうと必死だ。

「『わかった、わかったから、仲直りするから』」
「…ほんとに?」
「『うん、もう喧嘩しないから。だから口きかないなんて言わないでくれ』」
「…師匠は?」
「わ、わかった、もう喧嘩はしない。握手もする」

朔夜は再び顔を上げた。今日一番の笑顔でにっこり笑っていた。言質は取ったと言う笑顔だ。そのまま二人に歩み寄ると、二人の右手を掴んで引き合わせた。

「朔夜が言うから仕方なくだぞ、根暗変態野郎」
「『こっちだって仕方なくだ。調子に乗るなよ暴力脳筋野郎』。やった朔夜くん!博士は朔夜くんにだけは甘いから!」

有無を言わせない笑顔で押しとどまっていた二人の手を握らせると、二人はがっちりと握手を交わした。お互いの手を握りつぶしそうな勢いで握りあう。松本が歓喜の声を上げた。朔夜は満足そうにうなずいて女性陣の方を向いた。

「ごめんね、なんか家の背後霊が」
「…なんとかなったならいいけど」
「さっきーのわがまま攻撃がてきめんだねぇ」
「うちの片倉くんが迷惑をかけたね。これにこりたら…片倉くん?」

二人を見ると未だに手を握り睨みあっている。今度はどっちが退くかで無言の争いだ。朔夜はため息をついて二人の手を引き剥がした。

「喧嘩しても良いけど他の人に迷惑はかけないように…特に俺に」
「いつでもかかって来い。返り討ちにしてやる」
「『野蛮人めが、それはこっちの台詞だ』」




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