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「良かったね、ダンくん。さっきーは素直でいい子みたいだ」
「………」
「『…そんなことは百も承知だ。君はいったい誰だ、馴れ馴れしい』。博士、朔夜くんの先輩ですよ!馴れ馴れしいのは博士です!」

飛鳥が無事(?)に帰ってきたダンに話しかけると、ダンは怪しいものでも見るようにジロリと彼女を睨んだ。本人はそんなつもりは無いのかも知れないがなにせ目付きが悪い。松本に支えられていた右腕を離すと、中指で眼鏡をずり上げた。

「あれ?師匠は?」
「あれ?本当だ居ない」
「片倉くん?」

自分の霊の失礼な態度に苦笑いする朔夜。ふと飛鳥の方を見ると、先程まで飛鳥の近くに立っていた片倉の姿が見えなかった。部屋中見渡してもどこにもいない。ナナ以外の女性陣も初めて気づいたようだった。三人は朔夜同様室内に目を走らせ、ナナはまた不思議そうに瞬いた。

「………」
「あ、いた!」
「片倉くん、そんなところでなにをしているんだね」

雑把に見ただけでは見つけられなかったが、ナナが無言で指差す方に目をやると簡単に見つかった。部屋の右奥、天井近くまでそびえる金属の棚の上に胡座をかいて鎮座していた。

「いつの間に…」
「その男は苦手だ。…近づきたくない」
「………」

鋭い目付きでダンを見下ろす片倉。ダンは無言でそれを見上げている。二人の間に稲妻が走る。朔夜は慌ててダンの左腕を首からはずしてダンの前に立ちはだかった。もう一人で立てるようだ。ダンは朔夜を見下ろす。

「喧嘩しないの!」
「『喧嘩じゃない。気に入らないから殴りたいだけだ』」
「それを喧嘩って言うの!君は仮にも自称科学者でしょう!暴力に訴えるくせを改めなさい!弱いくせに!」
「『君は頭の良い弱い奴よりあんな筋肉バカの方がいいってのか?』」
「誰が筋肉バカだ!」
「いい悪いじゃないの!師匠は転落しかけた俺を助けてくれたの!服を脱がしかけたことだって俺が男かどうか証明するためにやむ無くやったことなの!」
「………」

ダンは喋るのを松本に任せていたがしばらく無言で朔夜と片倉を交互に見ていた。しばらくして真剣な顔の朔夜を見つめると小さく舌打ちした。

「『朔夜を助けてくれたことには礼を言う』」
「………」
「『だが今後は僕が傍にいる。二度と朔夜に触れるな』」

皮肉ったダンの言葉に片倉はカチンと来た。棚の上に立ち上がるとそのまま高さも気にせず飛び降りる。音を立てて着地すると朔夜の方に歩みより、彼の肩に腕を回した。

「お主に指図されるいわれは無いわ。朔夜と俺は師弟だぞ?好きなときに好きなだけ触る」
「師匠!?」
「『貴っ様ぁぁああ!』」
「ちょっと二人とも落ち着いて!」

やっぱり気に入らないと言うようにダンは身構えた。片倉は平然として一方的に朔夜と肩を組んでいる。下手に出てやればぬけぬけと…ダンの全身が殺気を放ち始める。

「『やっぱり気に入らない!殴る!殴らせろ!ぶっ殺す!』は、博士落ち着いてください!」
「弱い奴が何を吠えても無駄だ」
「『実験台にするぞ筋肉バカ!』」
「誰が筋肉バカだ!自分で喋れこの変態!」

女性陣はその様子を傍観している。なんてバカらしい争いだろうか。片倉は意地を張りすぎて引っ込みがつかなくなっているし、ダンは本気で激怒している。飛鳥の記憶の中であんなに躍起になった片倉を見るのは初めてだった。

「なんでこれだけ女がいて一番モテてるのがさっきーなの?」
「モテてると言うよりネタにしやすいんじゃないかな」
「でもあのダンって人はホントにさっきーが大事みたいですぅ」




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