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「神降師が居ない年は仕方ないけれども、演劇部は部室以外での活動も多いんだ」

あ、と二人は声を揃えた。そうか、演劇部と言うからには発表や資材調達など校外活動も多くなる。その際に人手が必要になったら神降師が必要だ。零威はそれ以上の答えを要求しなかった。なるほど、ちゃんと師騎が活躍できるような仕組みになっている。

「軽々しくどれこれは必要ないなんて言っちゃダメだよ、れいちゃん。ちゃんとみんな必要とされてこの部室に集まっているんだから」
「はい、すみません」
「わかればよろしい。さっきー、君にはバリバリ働いてもらうんだから気落ちしてる場合じゃないよ」

見透かしたように飛鳥は朔夜の方を見た。朔夜はかがみこんだまま微かに頷いた。零威はどうしたものか考えていたが、しばらくして口を開いた

「さっきー、ごめん」
「いいんだよ、もっともな質問だったし」

朔夜は零威の方を見て笑った。その笑顔に皮肉はない。むしろ自分の存在価値を肯定してもらって嬉しかったようだ。その笑顔を見ると零威はまた深く考えずに、ズケズケと安易な問いかけをした自分にまた嫌気がさした。朔夜の言う通りもっともな質問であったが、本人の前で聞くことではなかったかも知れない。屈託のない彼を見ていると嫌でも自分の内面に目を向けさせられる。それがいいことなのか零威には図りかねた。

「でもぉ、そんなこと言ったら霊調官なんてもっと必要ないですからぁ。元気出してねさっきー」
「確かに。魔闘騎も必要ないわね」

鞍羅が笑いながら言った。確かに神降師は必要だが他のクラスはさほど必要ではない。鞍羅の助け船に零威は少し救われた。朔夜はそんなことないと言いたげに首を左右に振った。

「きっとどの師騎も必要になるときが来るよ。だから俺らは集められたんだ。ですよね、飛鳥先輩」
「その通りだとも。最初に必要なのは霊力より協調性。いずれ仲間を信頼する絆になる」

朔夜の言葉に満足げに頷くと、飛鳥は一同を見渡した。

「みんなそれぞれ個性があって素晴らしい。霊力も申し分ない。恐らくれいちゃんも憑依している霊がいること思うが…連れている幽霊や自分自身にクセがあるのは恥じることじゃない。この部活では大事なことだ。みんなそれを大事にしなさい」
「はい!」
「わかったらさっきーは自分の霊を回収すること」
「はい!」

先輩の有難い言葉に、新入生三人は嬉しそうに声を上げた。最後に付け加えられた一言に朔夜は飛び上がって敬礼する。未だうなだれる松本を尻目に玄関の方へと駆け出した。それを見て松本も慌てて後に続く。飛鳥は改めて女子二人を見ると尋ねた

「くららの霊は一人かい?れいちゃんは?」
「はい、一人ですぅ」
「私はさっきーと同じで二人、何が起こるかわからなかったので留守番を言いつけてます」
「幽霊がおとなしく留守番しているとは思えないが…」

飛鳥が神妙な顔をすると、零威も頷いた。自分の背後霊がおとなしくしているとは思えない。特に一人は破天荒で何をしでかすかわからない。学校までの道は教えていないから付いてくることはないと思うが。つけてきていたらまずいな。顔を思い浮かべると溜め息が出た。

「ダンくん、大丈夫?」
「………」
「『平気で幽霊捨てられる、そんな朔夜も素敵だ』。捨てられた本人が言ってるんじゃ世話ないですよ…」
「お、帰ってきたね」

しばらくすると両脇から背の高い男を支えた朔夜と松本が帰ってきた。足元はまだ危ういが頭ははっきりとしているようだ。松本が通訳しながらひとりごちた。内心ほっとしている。外にはダンに気づいて騒ぐ人は居なかったようだ。




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