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「なんとかしたよ」
「捨ててきただけじゃないの!」
「だって邪魔じゃん。床が汚れるよ?」

爽やかな笑顔でやり遂げた、と言いたそうな朔夜を零威は叱りつけた。朔夜はきょとんとしている。まるで本当に邪魔だと言いたげだ。あれだけ必死で止めていたのに全く心配している様子はない。むしろ本当に手のかかる何かを手放したような表情である。なんと非情な。その後ろから松本が半泣きで駆けてきた。

「朔夜くん酷いよ!死人を道路に放り投げるなんて!」
「轢かれたって死なないから大丈夫でしょ」
「そう言うと思ったよ!そう言う問題じゃないでしょ!拾ってこようよ!」
「ほんと疲れるんだよダンくんの相手は…たまには良いじゃない、捨てても」
「捨てても良いけど部室の前は困るな」

飛鳥が苦笑しながら玄関の方を見た。朔夜はイタズラを見咎められた子供のように肩をすくめた。

「他の部員が見たらビックリするよ。せめて裏手のテニスコートに捨ててきたまえ」
「他に部員がいるんですか?」
「もちろん居るとも。私一人じゃ部は成り立たないよ」

それから、と飛鳥は付け足した。

「この部室はこの部屋を中心に結界が張られている。結界の中では幽霊は人間とほとんど変わらない状態になる」
「人間と変わらない?」
「そう。霊感が微塵もない人はいないと言うのが我々の定説だね。結界の効能は霊感の低い人でも触れられる。話せるし、見た目が透けない。足も出る。結界は部室の前の道路と裏手のテニスコート半分くらいまで有効だから、ダンくんとやらの体は他の生徒にも見えるんだよ」
「へー」
「へーじゃないよ!僕たち死体遺棄現場見られたかも知れないってことでしょ!?」
「あ、そうか」
「その可能性もあるね」

飛鳥の説明に朔夜はごく軽く相槌を打った。松本はそれを聞いてまた蒼白になった。必死で事の重大さを説くが、朔夜はダンを救いに行く様子は無かった。それを聞いていた零威も内心なるほど、と思った。道理で幽霊だと見破れないはずだ。余程強い結界が張られているのだろう。と言うことは先程の飛鳥はカマをかけてきたのだ。片倉は見えて当然なのだから。人が悪い。

「もうすぐ目が覚めて戻ってくるよ」
「やめて希望的観測!僕は…僕はなんて事を…!犯罪の片棒を担ぐなんて…死んで詫びるしかない!」
「だからもう死んでるってば。これ以上幽霊の死骸増やさないでよ」
「先輩、その結界は誰が張ったんですか?なんのために?」
「元から幽霊が見える人が集まってるなら必要ないと思うんですけどぉ…」

ヒステリックな声を上げて泣き崩れる松本を、朔夜はまたか、と言いたげに見ていた。放っておいても迷惑なので一緒にかがみこんで嗚咽する背中を叩いてやった。零威と鞍羅はそんなもの見えていないと言った様子で飛鳥に説明を求める。

「理由は簡単だよ。知っての通り演劇には舞台や大道具が必要だろう」
「ええ」
「幽霊は本来の状態では物をすり抜けてしまう。だから結界を張って実体化させて手伝わせようって、それだけの魂胆なのさ」
「なるほど、幽霊も部員の一部として勘定するんですね」
「そういうこと。残念ながら誰が張ったかに関しては知らされていないよ。この部室が出来た頃にはもう張られていたようだけど」

飛鳥は心得ていたように流暢に説明した。零威も鞍羅も納得してうなずいた。そして当然の疑問を口にした

「結界で実体化できるってことは神降師って必要なんですか?」

朔夜がぴくりと反応する。まずい、話が思わぬ方向に向いているようだ。

「そもそも毎年神降師が入学してくるとも限らないから張られていた結界らしいが」
「でも神降師って媒体や人間に幽霊を憑かせて実体化させる師騎ですよね」
「そうだね」
「正直要らなくないですか?」

歯に衣着せぬ零威の発言に朔夜は頭上から金たらいが落ちてきたような衝撃を受けた。零威は淡々とした口調で尋ねた。鞍羅は零威の発言に驚きあたふたしている。

「必要だよ」

飛鳥は苦笑しながらきっぱりと答えた。零威は首をかしげる。鞍羅もきょとんとして飛鳥の顔を見つめる。



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