10/23

「話の内容は聞こえなかったから博士の中では朔夜くんが暴漢に襲撃された事になってます!」
「暴漢…!?」
「確かに内容聞いてないと俺が単に脱がされたみたいになるけど!落ち着いて!事情があるんだ!」

片倉が衝撃を受ける。鞍羅は突然の乱入者にびっくりしてナナと共に零威の側に身を寄せた。白衣の男は朔夜の説得にも応じずつなぎの男を引き剥がそうと躍起になっている。

「この俺を暴漢扱いとは…いい度胸だ。覚悟はできているんだろうな?」
「……!」
「『望むところだ』じゃありませんよ!博士めちゃくちゃ弱いじゃないですか!腕相撲僕にも勝てないでしょ!」
「……!」
「『男にはやらなきゃならない時がある』って絶対勝てませんよ!万に一つも勝率はありません!」

片倉が眉間に青筋を立てて一歩歩み出た。胸の前で両手を握りボキボキと音を立てる。つなぎの男は脅えて白衣の男の影に隠れた。折悪しくその手を滑り、白衣の男は自由になった。朔夜を挟んで二人の男が対峙する。つなぎの男は自分が酷い失態を犯したと言わんばかりに震え上がった。

「あわわわ、離しちゃった離しちゃったぁ」
「松本くんも落ち着いて!君は悪くないから!」
「で、でも僕が離したせいで…」
「大丈夫だから!俺が何とかするから!」
「朔夜くん頼むよう、万が一の事があったら僕が責任とって死にますぅ!」
「もう死んでるだろお前!」

つなぎの男…松本が朔夜にすがるように悲鳴を上げた。その言葉に全員がはっとする。そうか、この二人は…

「さっきー、まさかこの二人…」
「ダンくんちょっと落ち着いて!師匠だって好き好んで脱がしたわけじゃないんだから!」

零威がびっくりして二人の方を指すが、朔夜は聞いていない。白衣の男…ダンを止めるのに必死だ。朔夜の言葉にダンは一旦制止する。朔夜はほっとしたが、その顔を見ると先程より怒りが激しくなっている。松本が慌てて口を開いた

「『師匠だと?貴様僕の朔夜に何を吹き込んだ!?しかも好き好んでやってない?朔夜を弄んだのか!』」
「ちょ、ちょっとダンくん?弄んだってなに!?」

得体の知れない冷たさが片倉の背を走った。目の前の男は確実に自分より弱い。だがなんだあの眼は。憑かれたような憤りだ。背後に邪念のようなものを感じる。憎悪、侮蔑、独占欲、ありとあらゆる負の感情が渦巻いている。呪術師だってあんな眼はしない。片倉は握った拳に汗が滲むのを感じた。脅えている?自分が?

「御託はいいからかかって来たらどうだ」
「師匠、否定してくださいよ!」
「『朔夜をたぶらかした罪は重いぞ!』やめて博士!」

感情を否定するように片倉がニヤリと笑って挑発する。何かがブチッと音を立てて切れると、ダンは朔夜を押し退けて相手に殴りかかろうとした。しかし松本がその足に飛び付く。ダンはバランスを崩し正面から床に倒れた。すごい音がした。ダンはびくびくと痙攣していたが、しばらくして微動だにしなくなった。

「グッジョブ松本くん!」
「あわわわ、は、博士ぇっ!すみませんすみませんすみません…!」

自滅したダンを見下ろして片倉は内心安堵した。この男は力の差を埋めるに余りある何かを持っているようだ。正直戦わなくてほっとした。朔夜は松本に向かって親指をつきだした。松本は足を離して今にも泣きそうな顔でダンの体を揺すっている

「っていうか否定してくださいよ師匠!」
「え?」
「ダンくんは思い込みの塊なんです!ちゃんと説明しないと見境なく襲ってくるんですよ、弱いくせに」
「あ、ああ…すまない」

その様子を女四人は冷ややかに見つめていた。また変なのが現れた。しかもやりたい放題やって撃沈なんてお粗末すぎる。零威は改めて倒れたダンを指差すと朔夜に問うた

「ねぇ、この人たちまさかあんたの背後霊?」
「あ、うん、そうだよ。今日は何が起こるかわからないから留守番してるように言ったんだけど…来ちゃったみたい」

零威は大きな溜め息をついた。宿主が宿主なら背後霊も背後霊だ。この事態にどうやって収集をつけたらいいのだろうか。いや、収集はついたが後味が悪い。幽霊だとわかっていても目の前で沈黙するものを見るのは忍びなかった。

「どうすんのよこれ」
「ちょっと待って、なんとかする」

朔夜は活発に請け負うとしばらく考えたあと、松本にダンの上半身を抱えるように指示した。自分は両足を抱え上げると入り口の方へ向かうよううながした。松本は訳がわからないと言ったように従っていた。男を抱えた二人が部屋から消えると、何か重いものを外に放り出す音がした。同時に松本の悲鳴が聞こえる。朔夜はすぐに満足した様子で戻ってきた。




[ 10/55 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
メインへ
TOP



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -