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そんな確かめ方があるか、と朔夜は不満を漏らしている。飛鳥は気を取り直して苦笑した。

「ズボン下ろされたんじゃなくて良かったね」
「そんなことしたら師匠と言えど殺してますよ!」
「もう死んでるけどね」
「ややこしいわ!」

零威は静かに黙り込んでいる鞍羅の方を見た。顔を両手に埋めたままだ。そしてその前にいる少女に眼を止めた。一連の出来事を、ナナは唇に人差し指をあてて見つめていた。どことなく羨ましそうな顔をしている。見つめる零威に気づいていないのか、手を下ろすと朔夜の方に向かって小走りに駆け出した。

「ん?何、ナナちゃん?」
「………」

ナナは無言で朔夜を見上げている。零威は一瞬嫌な予感に打たれた。この子は何かする。止めなければ。ナナの方に向かって走り出した時、鞍羅がようやく掌から顔を上げた。

「きゃああああ!」
「ナナちゃん!?」
「ちょっ!」

ナナは迷うことなく朔夜の服の裾を掴み前からそれを捲りあげた。鞍羅は再び顔を背け、零威はナナに追いすがりそれを阻止する。腹が見えたところで零威に逆方向に服を引っ張られ、朔夜の体は隠れた。
ナナは不満そうに頬を膨らませた。何か言いたげに零威を見つめたが、安堵の息を吐いた零威から離れ鞍羅の背後に隠れた。

「す、すみません、この子楽しそうなことがあるとすぐ真似したがるんです…」
「今の楽しかった!?俺恥ずかしいだけじゃない!?」
「わ、私も恥ずかしいです…」
「恥ずかしがらなくてもいいわ。さっきーの貧相な体が見えただけじゃない」
「貧相で悪かったね!」

朔夜は自分の体を両腕で抱き締めながら叫んだ。鞍羅はダメでしょとナナを諭している。飛鳥二度目の惨状が阻止されたことに胸を撫で下ろしていた。片倉は頬を赤くしてそっぽを向いている。

「あれ!?なんで師匠がそういうスタンス!?」
「い、いやべつに…」
「男が上半身晒したくらいでギャーギャーいってんじゃないわよ。女じゃあるまいし。こちとら見飽きてんのよそんなもん」

零威がぴしゃりと叱りつけた。飛鳥はもっともだと言う風にうなずいた。これだけの人数の前で二度も晒されたのだから騒ぐのも最もだが、まったく興味を示されないとなるとなんとなく自分が悪者な気がした。いや朔夜は悪くないのだが。

「すみません…」
「私が変なこと聞いたから…」
「くららが謝ることないわ。悪いのはさっきーと片倉さん」
「ちょっと零威ちゃん女の子の甘すぎない!?」
「うるさい、黙れ」
「いや、俺も動転していて…悪気は無かったんだが…」
「悪いのはさっきー」
「謝ったよね!?真っ先に謝ったよね!?」
「うるさい、黙れ」

朔夜は肩を落とした。何を言っても無駄そうだ。恥ずかしい思いをしたのに貧相だの変態だの(言われてない)と酷いではないか。朔夜のはなぜこんないじられているのだ。飛鳥はただ満足そうに一年生の交流を見つめていた。片倉もそれに気づき微笑みを浮かべた。

「これから一年、楽しくなりそ…」

穏やかに終わろうとしたときだった。ガタンと玄関の扉が開く音がすると、誰かが駆け込んできた。反射的に全員が入り口の方を向く。
長身の白衣の男が身構えていた。顔色はかなり険しい。その後ろからつなぎを着た野球帽の男が走り寄って白衣の袖を掴んだ。

「博士、いけませんよ!留守番してる約束じゃないですか!」
「………!」
「つけてきたのバレちゃいましたよ!朔夜くん、これは博士が勝手に…」
「ダンくん!松本くん!」
「…………!」

つなぎの男が白衣を引っ張り続けるが、白衣の男はじりじりと一同に迫ってくる。眼鏡越しのつり上がった眼は怒りに燃えていた。しゃべらないので一体何に怒っているのか解らなかったが、燃える瞳は片倉を睨み据えていた。

「博士がどうしても様子を見に行くって…外から様子を窺ってたんだけど、そこの男のひとが朔夜くんの服を脱がしかけたことに怒っちゃって…」
「……!……!」
「『僕の朔夜に勝手なことしやがって』って怒ってますー!もう僕の言うことなんか聞いてくれなくて…朔夜くんなんとかして!」
「ちょ、ダンくん落ち着いて!」

今にも殴りかかりそうな白衣の男をつなぎの男が全身に力を込めて押し止めている。朔夜は慌てて二人に駆け寄り白衣の男をなだめはじめた。



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