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2011/08/05(金) 19:18
飛鳥が親しみを込めてそう言うと、鞍羅は嬉しそうに顔をほころばせた。初めて秘密を話せる人に会った、そんな心持ちが伝わってくる。それでも少し信用には足らないのか、すぐに背中に隠れるようにナナの後ろの立った。ナナの双肩に両手を置き飛鳥に促されるまま部屋の中へ足を踏み入れた。

「あの、さっきーくんとれいちゃんさんは…その、何か特技はあるの?」
「さっきーでいいよ。れいちゃんはれいちゃん」
「私は霊をぎったんぎったんにぶちのめせるわ」
「俺はいろんなものに幽霊を降ろせるよ」

それを聞くと今度はびっくりしたように目を丸くし、怪訝そうに零威と朔夜を交互に見た。飛鳥が補足する。

「れいちゃんは魔闘騎、さっきーは神降師だよ。まだ実技は見せてもらっていないが。私も逆じゃないかと思っていたんだがね」
「男のひとの神降師…」

興味深そうにしげしげと朔夜を見る鞍羅。神降師は代々女系で男の神降師なんて生まれてこの方聞いたこともなかった。本当に神降師なのだろうか。期待と疑念が鞍羅の胸を取り巻いた。と言うか相手は本当に男なのだろうか。中性的な顔立ちで男女どちらにも見えるが、身長や肩幅からして男で正しいかもしれない。初めて出会った《同類》に緊張したのか、鞍羅の頭の中は訳のわからないことでいっぱいになった。確認してみるしかない。

「あの…さっきーくんはほんとに男のひとなの?」

鞍羅の決死の質問に朔夜、零威、飛鳥、片倉は面食らったような顔をした。特に朔夜は一番びっくりしている。己を指差して固まっている。しばらく沈黙が続いたあと飛鳥がこらえきれないと言った風に吹き出した。

「あはははは!」
「え、くららちゃん、俺の事?」
「ぶっ、くくっ」
「れいちゃん!?」
「あ、あのっ変なこと聞いてごめんなさいっ」
「気にしなくていいと思うよ、実は私も彼が本当に男か怪しんでいたところだ」
「飛鳥先輩!?」
「確かに男か女か顔じゃわかんないわよね…くくっ…性格も女々しいし…だめ、ツボに入った」

飛鳥は笑いすぎて目に浮かんだ涙を拭い、零威は笑いを噛み殺そうと必死だ。片倉は驚いた表情のまま硬直している。抱きつかれた自分は相手が男だと確信していたが、どうやってそれを伝えたものか。零威と飛鳥はわかっていてからかっているようだが、鞍羅の目には真剣な色がある。突飛な質問に自分を恥じるように顔を赤らめていたが、一度浮かんだ疑念はなかなか晴れないらしかった。

「男だよ男!どっからどう見ても男!」
「わかって…ぐふっ」
「さっきー、もっと男らしくしなくちゃ」
「笑わないでくださいよ!」
「私真剣にさっきーくんが男のひとなのか女のひとなのか気になります!」
「男だってば!」

片倉は悩んでいた。目の前で真剣な乙女が答えを欲している。自分に出来ることはなんだろう。考えたが片倉は飛鳥が言う通りアホだった。考えすぎると頭の回路がショートして冷静な思考を失う。その分水嶺が自分でもわかっていなかった。頭の中を乙女と朔夜と抱きつかれた時の感触がぐるぐると回る。

「確認すればいいだろ!」

気がつくと叫んで朔夜の背後に回り込んでいた。そのまま相手の上着ごと上半身の服を根こそぎ引っ張り上げる。捲り上げられ顕になった朔夜の胸は、予想通り平坦だった。

「きゃああああ!」
「か、片倉くん!?」
「し、師匠!?」
「!?」

鞍羅は一瞬凝視したあと悲鳴を上げた。両手で顔をおおう。朔夜は顔を真っ赤にして片倉から飛び退いた。慌てて服を元に戻す。零威はびっくりして笑いが引っ込んだようだ。飛鳥は反射的に片倉に走り寄ってその頭を平手で叩いた。

「何するんですか師匠!?」
「君はアホか!また用でもないことを考えたんだろう!あれほど考えるなと…」
「いたいけな乙女が悩んでるのを放ってはおけなかった!」
「何その正義ゆえにやってしまった犯罪者みたいな弁解!?」
「でも男だってことははっきりしたわね」

零威がひきつった表情で片倉を弁護した。鞍羅は顔を隠したままこくこくとうなずいた。



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