■ いかさまだらけの土曜日
「──昇進おめでとう、“お兄ちゃん”」
「それは嫌味か、※※※」
「…別に」
珍しく帰ってきたヴェルゴさんに声を掛ければ、サングラス越しに鋭い視線を向けられた。怖い訳でもないけどするりと躱して何もなかったように振る舞う。
ヴェルゴさんは私の兄──という設定で、私はその病気がちな妹──というこれまた設定だ。ドフラミンゴ様の適当な人選、かつ実に適当な位置付けである。幾ら私が黒髪でヴェルゴさんにちょっと目元が似てるっぽいからって凄いこじつけだと思う。
お前ら仲良いからいいだろ、なんて言われて送り出されてもう10年以上。余り帰ってこないとは言え、一緒に暮らして10年以上。
「……※※※、」
「ん…っ、ちょ、っと…誰かに見られたら、」
「拗ねるな」
「っふ…拗ねてな、い…ッ」
私を抱き寄せた力強い腕がそのまま私を拘束して、ごく自然に服の下の素肌に触れてくる。カーテン開いてる、のに。
私とヴェルゴさんは兄妹っていう設定なんであって、ご近所さんにも職場にもそういう認識をされていて、だけど本当は、どっちかと言えば恋人と言うかもう夫婦みたい、な。
びく、と体を跳ねさせた拍子に顔が上向いたのをいいことにキスされる。年上の功っていうか何ていうかで、舌を絡められてしまうともう私は太刀打ち出来やしない。力なくヴェルゴさんのコートの胸元を掴んで息を継ぐので精一杯だ。
久し振りだから触れられて過敏に反応してしまっている。そう分かっているのに、逃げられない。
「んっ、だめ…またすぐ出る、って、さっき、っ、言った…」
「2時間は猶予がある」
「ぁ…ッ、嘘吐、き……ひァっ」
スカートの中に手が突っ込まれて声が裏返った。トロトロになってるのなんかすぐにバレて、濃いサングラスの向こうでちょっとだけ目が細められたのが分かった。
と、ひょいと抱き抱えられる。ドフラミンゴ様程でもないけど大柄なヴェルゴさんは私を易々と抱えてしまう。そうして下手をしたら誰かに見られ兼ねないカーテン開けっ放しのリビングから、昼間シーツを張り替えたベッドルームへ。
ん? あれ? 私は同意した記憶はないのだけど?
「やだ、シないから…っ、ヴェルゴさ…ぁんっ」
「付き合え、連れてはいけない」
殆ど意味のない抵抗をする私を組み敷いて、ヴェルゴさんはサングラスを外しながらそう言った。そんな声、卑怯、だ。私がそういうのに弱いのを知っていてこの人は、ここぞという時に間違いなくそれを使ってくる。
小さく唸りながらも微かに私が頷いたのを見逃さず、我が“お兄ちゃん”は猶予時間をほぼフルに消費し腐ったのだった。体力どうなってるの…化け物か。
因みにこの後何もすぐに移動って訳じゃなくあと半年は一緒に暮らせるしちょこちょこ帰ってくるという話を聞いて、私は騙したな!とヴェルゴさんに食って掛かることになるのだった。まぁ言うまでもなくお得意のすっ惚けで綺麗さっぱり流された訳なのだが。
30代×20代のつもりで書いてたけどヴェルゴさんは果たして何歳なのか…
13.11.8
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