■ 飼い犬の性癖
「あ…若……、」
はぁ、と熱の籠った息を吐くと、濃いサングラスの向こう側から冷たい視線が向けられたのが分かった。それは私の体を火照らせる。期待に喉を鳴らすと、至極面倒臭そうな溜め息が吐かれた。
「…※※※」
「はい、」
「何を期待してる?」
「ぁっ」
足元に這いつくばっている私の頭に靴裏が乗る。ぐっと床に押し付けられるようにされて細く声が漏れた。苦痛ではなく、やはり期待を孕んだそれにまた、頭上から落ちてくる嘆息。それさえ私には快楽の糸口であるのはご存じだろうに。
「本当にお前はどうしようもねェな」
「…あぁ、若、わか、」
私の口は呆けたように同じ音を繰り返す。触れられていると思うとぞくぞくした。
手を伸ばして靴底に添える。足の下から視線を投げると、いつもの笑みの向こうに酷薄なそれが乗せられた。いつだって私の欲求は否定されない。ただ仕様のない奴だと笑われるだけで。ただ、それだけで。
そっと靴を脱がせて、露出した指先に唇を寄せる。彼の肌に触れているのだと思うと堪らない充足感と快楽に襲われる。こんな浅ましくて汚ならしい私なんかが彼に、しかもその肌に直に接しているなんて、それだけでも身に余ることだというのに。
熱い吐息を吐くと、フッフ、と彼は笑いながら上体を倒して私の髪を掴んだ。ぐいと顔を上げさせられて、サングラスの奥の瞳と視線が絡む。ぞくりとした。だって、彼の視線は余りにも優しい色を宿していて。だから私、は。
「しゃぶりてぇのは足だけじゃねェんだろ?」
そう問われて、頷くことしか出来ないのは必然だった。
愛おしいが故にマゾヒスティック
13.08.29
[
prev /
next ]