■ 保健室ロマンス

※唐突に学パロ




 先輩は、とても怖い。まぁ見た目だけの話だ。
 だってツンツン立っている髪の毛は燃えてるみたいに真っ赤で、デザインが格好いいと評判のブレザーは着崩し放題で胸板から腹筋まで豪快に見えているし、ズボンも期待を裏切ることなく漏れなく腰パン、ついでに何かどれも高そうなシルバーの装飾品をジャラジャラつけまくってもいる。ついでに爪は黒いネイルで塗られていて目付きだって頗る悪く、喧嘩させたら卒業生の人たちすら簡単にノしてしまうという、札付きの不良だ。
 そりゃあ怖い。見た目だけの話だけど、凄く怖い。こうして目の前に立ち塞がられると慣れている私ですら軽く悲鳴を上げそうになるくらいだ。

「あ、あの、ユースタス、先輩…?」

 出来れば進路を遮らないで欲しいな、なんて。思っているんだけど、口には出せない。だって表情怖い、何か凄い顰めっ面してるっ。
 私ですらこんな反応な訳で、先輩に慣れていない数多くの一般生徒は私に生け贄を哀れむ視線を投げてそそくさといなくなってしまう。こういう場面で空気を読まずに声を掛けてくるような勇者過ぎる友達は私にはいない。うう、これは正に万事休すというやつか。
 普通に話し掛ければ普通に答えてくれる筈の先輩が、今日の今に限っては何も言ってくれない。何か気拙そうな雰囲気でじっとこっちを見つめていらっしゃる。せめて何か言って下さい先輩。もう暴言とかそんなんでもいいから。
 ──そうだ、現実逃避の為にここらで私と先輩の出会いを振り返ってみよう。
 私が先輩、ユースタス・キッドその人に正面に出会ったのは委員会の会合でのことだった。4月の、委員が決まって初めての召集。場所は保健室の片隅だった。何せ保健委員なもので。
 長い昼休みを利用したその会合という名の大体顔合わせに、私は早めに参上した。ら、使うと思しき四角に適当に組まれたテーブルにとてつもなく目立つ赤毛の人がいて悲鳴を上げかけた。ついでに次の瞬間にそれがかの有名な我が校の不良の一角、ユースタス先輩だと分かって本気で悲鳴が出かかった。頑張って飲み込んだけど。
 後々聞いた話ではクラスルームとかタルいからサボっていたらいつの間にか委員に決まっていて、その日はお昼ご飯を食べに屋上にでも行こうかとしていたら会合があるからここにいろと保険医に言われたのだそうな。因みに彼を保健委員に推薦したのはこれまた不良の(但しこっちは優等生の皮を被っている)トラファルガー先輩らしく、仲が悪いユースタス先輩は甚くご立腹だった。トラファルガー先輩の方は図書委員をしていて、彼目当てに図書室の利用者が一気に増えたんだそうな。イケメン怖い。
 えぇと、それで。手際が頗る悪い私がある日居残って委員の仕事してたら、サボって保健室で寝てたらしいユースタス先輩がのそりと現れて。とっくに放課後になってたから帰ろうとしてたんだと思うんだけど、手伝ってくれたりなんてしてしまって。その時に先輩が凄く要領いいのとか、(意外にもと言ったら失礼だろうけど)字が滅茶苦茶綺麗なのとかを知って、そこから何だかちまちまとながらお近付きになったのだ。
 ユースタス先輩は要領がいいのは勉強もらしくて、何気なく聞いたら常に上の中くらいにいるらしくてビックリしてしまった。授業中寝てるのは暇だからだそうで、板書とか全部写すのなんか非効率だろうと彼は平然と宣った。うわぁ勉強出来る人の発言だ。
 私なんか頑張って中の中なのに、なんてぼやいたら、教えてやろうかとか言われて余計にビックリした。ほんとに教えてくれたし分かりやすかったからもう感涙すらしそうだった。喧嘩強いけど頭は弱いと思っててすいませんでした本当に。
 最近は彼の取り巻きのキラー先輩とかヒート先輩、ワイヤー先輩にも顔を覚えられてしまったくらいには私はユースタス先輩に構ってもらっている。大体嫌がる私を無理矢理、に見えるみたいだけど、私としては意外と優しい先輩たちにあれこれ教えてもらったりたまに奢ってもらったりもして、実に楽しく過ごしている。
 で、目の前のユースタス先輩だ。何か言って欲しい。スルー出来ないこの状況で黙り込むのは止めようね、先輩。

「おーい、せんぱーい…?」
「……お前さ、」

 ちょっと背伸びをしてぶんぶん顔の前で手を振ってみたら、漸く先輩が口を開いた。もにょもにょ言い難そうにしながら、それでも吐き出される言葉。

「放課後、暇か?」
「え、今日ですか? えっと…はい、暇ですけど」
「ならちょっと付き合え」

 珍しく命令口調で言い置いて、ユースタス先輩は足早に去って行ってしまった。
 うん? 放課後に用事あるか訊くのだけでそんなに難しい顔してたの? 何からしくないなぁ。
 状況がよく分からなくて首を捻りながら、私はそうだ職員室に用があったんだとそっちの方向へ歩き始めた。途中でユースタス先輩の学校でのオカンことキラー先輩に出会ったからさっきのことを訊いてみたら、「そうかとうとうか頑張れよキッド…」なんて一人納得されてしまった。本当によく分からない。
 まぁ放課後になったら自ずと分かるでしょ、と適当に考えを放り投げて、私は午後の授業に向けて頭を切り替えたのだった。







高校で委員あったかとか高校特有の用語とかいまいち覚えてないんですけども雰囲気で…

13.06.27


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