■ カウンター越しの愛は届かない

「フッフッ、テメェら何でこんなとこにいんだ」
「あァ? こっちの台詞だ鳥野郎」
「…無益」

 そんな会話──よりは剣呑な遣り取りが聞こえたかと思うと、乱暴に店の扉が開かれた。その向こうには予想通りの3人がお互いを牽制し合うようにして立っている。そしてカウンターの中の私と目が合うと、我先にと中に踏み込んできた。

「今日も美しいな、※※※」

 紫煙を薄く吐き出しながら綺麗に作られた百合がメインの花束を差し出してきたのはクロコダイル。
 丁度カウンターの脇に飾っている大きな花瓶の花たちが終わり時だったから有り難くもらっておく。花束を受け取った右手を引かれて甲に口付けられたけど、それくらいは許してあげよう。

「こいつらも馴染みだったのか? 妬けるじゃねェか」

 それを押し退けながら相変わらずのスマイルに軽く非難の色を混ぜて私の前にやってきたのはドフラミンゴ。
 するりと首筋に回ってきた大きな手が私の胸元に大粒のブルーダイヤのネックレスを嵌めて去っていく。また高価なものを、と思ったけれどすぐに外すと煩いから放置。

「…いつもの。と、主も飲め」

 その2人を横目に素知らぬ様子でスツールに腰を下ろして落ち着いた声でお酒を要求するのはミホーク。
 いつもそんな言い方しない癖に、わざわざそれを選んだのはどう考えても2人を意識してのことだろう。彼のキープボトルを開けて手早く水割りを作っていく。
 そんな私の目前3席を占領して、不惑前後の男たちは相変わらず口喧嘩に勤しんでいる。そういえば彼らはある意味同僚で、何年も通いつけている割には鉢合わせするのは初めてだったっけと今更のように思う。時間が遅くてお客が捌けていたのは助かった。多分怖がられてしまうだろうし。

「静かに飲めないなら出てってもらうわよ」

そんな風に言えばぴたりと口は閉じられる。
 同業の海賊にすら恐れられる七武海が3人も、揃いも揃っておかしなもんだ。こんな年増相手にしなくったって、可愛い子は選り取り見取りだろうに。まぁ年下の男は可愛いし、言い寄られて悪い気はしないのだけど。

「俺も飲むールイ卸しちまえよ姐さん」
「…キュヴェ」
「はいはい、」

 只今、と言いながら競うように高い銘柄が口にされるのに笑ってしまう。ミホークが飲んでいるのもリシャールだから、今月の売り上げは多分過去最高だろう。
 昔はこんな高いのぽんぽん入れられなかったのにねと笑えば3者3様に返される苦い顔。子供扱いするなと怖い目で訴えられても、やっぱり私にとっては皆まだまだ可愛らしく見える。

「おばさん相手に飲んで楽しい?」

 訊いてみたら3人ともがっくり首を項垂れさせたから、私は自分のマティーニを舐めながらやっぱり可愛いなとまた笑ってしまった。







小さな島のこぢんまりしたバーに足繁く通う三武海と本気で相手にしてくれないアラフィフな姐さん。

13.06.16


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