ほんとうは歩くのが速い彼。だけどいつもわたしの歩幅に合わせてくれるから、置いていかれたことは一度もない。
だからデュースやシンクが彼に向かって、歩くのが速い、と話している姿を目にするとちいさく笑みがこぼれてしまう。自分だけ特別扱いされてるんだって思ったら、身体がきゅうっと苦しくなった。
そしてわたしはもっと、エイトを好きになる。もっともっと、好きが大きくなる。



ほんとうは俺は歩くのが速い。だけどとなりを歩く彼女はそうじゃない。だからいつも歩幅を合わせる、置いていったことは一度もない。
そんな俺を見て、疲れないのか、とエースは言った。思ったこともなかったが改めて考えてみると、答えはノー、だ。あくまで合わせるのは彼女だけであって、他のヤツに対してはいつも通り。だからデュースやシンクに、歩くのが速い、と言われたこともある。
あからさま、だろうか。彼女だけを特別扱いしている俺は、彼女自身にどう映っているんだろうか。




「あのね」「なあ」
「エイト?どうかしたの?」
「いや、俺は別に」
「うー、気になるよ」
「………笑うなよ?」
「? うん?」
「………歩くのが速いだろ、俺」
「そう、だねえ」
「合わせて歩くのは、変、か?」


あ。ごめんエイト。
わらっちゃった。


「お前…」
「ご、ごめん!だって!…かわいかったから」
「男が彼女にかわいいと言われて喜ぶと思うのか」
「ごめんなさいーもー」
「………」
「あ、あのね、変じゃないよ?寧ろ、その、う、うれしい…です」
「…っ、」
「ありがとう、ね?」
「…大したことじゃない」
「…ふふ、顔赤い」
「!…笑うな」



となりあわせの日常を歩む