ルブルムでは珍しく、大粒の雪が深々と降り注いでいた。依頼や作戦で西に出向かない限り滅多に見ることはない白の世界。その美しさにどくんどくんと胸が踊る。
「…エイトも見てるかな」
熱心な彼のことだ、こんな日でも暇さえあれば鍛練に勤しんでいることだろう。今日は多分、裏庭のはず。思い立ったが吉日、わたしは部屋を飛び出した。



教室に入ってまず視界に現れたのは二人の女子の背中。デュースとレムだ。授業中と同じ席に並んで本を読んでいる。ドアが開く音に気付き振り向いた二つの瞳と同時に目が合って。特に何を言うでもなく近寄るとレムの桜色の唇から、エイトなら裏庭にいるよ、と告げられた。…わたしまだ何も言ってないのに。
彼女たちにお礼を言うと、教卓を通り過ぎ二枚目のドアに手を掛けた。するとそこには屈伸をする彼の姿。視線を察したのかぴたりと動きが止まる。邪魔をしてしまっただろうかと不安感に包まれたわたしの心は、エイトのおはようと言う優しい声色によって瞬く間に浄化された。
「おはよう。エイトの鍛練に気候は関係ないんだね。…寒くない?」
「動いてるからな」
「…流石。 あっ、雪すごいよ」
肩の防具に積み重なった白を素手で払うと、冷たさからか指先が薄ら赤く染まる。
「…悪い」
「ううん。大丈…っくしゅ」
目に見える吐息が口を覆った両手から零れる。凛とした朝の空気にやられたのかもしれない。小さく震える上半身に、何か上着を羽織ってくれば良かったなと思っていると、生暖かい風がふわっとわたしを包み込んでそこに重さが加わった。ぬくもりの正体は、先程までエイトが着衣してた制服で。返そうと袖に手を掛けたら。
「着ていろ」
「で、でもエイトが」
「……少し待っててくれないか?」
そう言いながら目配せでわたしをベンチへ促せば、返事をするよりも早く彼は再び身体を動かし始めた。
照れ隠し、なんだろうなあなんて、きっと怒られるから声にはしないけれど。今日のノルマが終わったら、わたしからリフレに誘おうかな。なんとなく、今、温かいココアを二人で飲みたい気分だから。