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▼ リミッター保持

「リミッター?……なんだそれは」
「そうだな……『サイタマ』というヒーローを知っているか?」
「サイタマ……?」
「ハゲててマントを付けているヒーローだ」
「ああ、ハゲマントのことか」
たしか協会本部に呼ばれたメンバーにいた気がする。ハゲてて、黄色のヒーローコスチュームを着ていた。茶をすすっていたのを覚えている。あのときハゲマントはB級ヒーローだったはず。もっとも、B級とは思えぬ実力の持ち主だったが。B級のそれよりも格段に上の実力だった。S級にいないのが不思議なくらいに。ただそいつは、超能力を所持するタツマキフブキ姉妹や不死身の自分のように特に特殊な能力を持っているわけではなさそうだった。ただただ、強い。何もないのに、強さだけある。
「彼は、サイタマは、トレーニングだけで強くなった男なのだ」
「は……?」
トレーニングだけで…?
そんな話あるか、ふざけてんのか!と気を抜くに抜けず変な顔をしてしまう。眉間にしわを寄せたまま目を軽く見開いた。
「毎日、どんな日でも欠かさずストイックに練習メニューをこなした。ダイエットする人よりはハードかもしれないが、メニュー内容は一般人向けの腹筋やランニングなどだ。練習メニューをこなし続けたその結果、リミッターを外し力を得た。ただ、引き換えに彼は髪の毛を犠牲にしてしまったが……」
涙ほろりと「かわいそうに」と呟くジーナスは放っておく。
それだけで、はたしてそこまで強くなるものだろうか。
腑に落ちない気持ちを抱えながら、ゾンビマンはうなる。
「それとこれと、なまえになんの関係があるんだ。サイタマとなまえはなんの面識もないだろう」
「サイタマと直接関係があるとは一言も言ってないぞ。彼女とサイタマには共通点があるんだ。」
「それがその……『リミッター』……ってやつか?」
そうだ、とジーナスは二回ウンウンと頷く。
でも、とゾンビマンが口を開く。
「なまえはサイタマみたいな『強さ』をもっているようには見えねぇな」
「それはまだリミッターが『完全に外れてはいない』からだ。なまえはあるときだけ一時的にリミッターが解除される、観察してて気づいた」
「一時的って」
「思い出してみろ、なまえが普通の女子高生とは違う身体能力の高さを見せたときを」
そんなこと言われたって、『普通の女子高生の身体能力』の基準がわかんねえよ……とぼそぼそと呟く。

「彼女が自身の命の危険にさらされたときだ」
最初にポン菓子怪人にあったときも、夜道で不審者にあったときも、そして下校中にゾウの怪人にあったときも。そういうときなまえは普段以上に機転を利かせたり、集中力を発揮して驚異のコントロールをみせつけたりする。ポン菓子怪人にスプレー缶を投げ込んだり、時計をメリケンサックがわりにしたり、麻酔銃をゾウの鼻の粘膜を狙って撃つなど。

「ただ、手元になにか武器になるものがないと戦えないらしい。試しになにもない道端でタコの怪人で襲ってみたところ、まったく反撃できていなかった。あのときは……ジェノスとかいうサイボーグが出てこなかったらなまえの命は危なかっただろうな」
「てめぇ……なまえの命を危険にさらしやがったな……」
「まだ話は終わってないぞゾンビマン、落ち着いてくれ」
なまえを危険にさらしたのに悪びれのないジーナスに憤りを覚える。
「なまえのリミッターを外したいって話だろ、断る」
「そんな…お前はなまえの保護者かなんかかな?」
「うるせぇ」
ゾンビマンの頭に「守ってやりたい」という言葉が浮かんで、これは保護者としての心なのか?と自問する。
「リミッターを外すとなまえも何か大切なものを失うかもしれない、サイタマが『自分の髪の毛』を失ったように」
「……やってみないとわからないが、その可能性もあるだろうな」
「そんな悲劇は避けてぇな」
だから、

ゾンビマンはそう呟くとジーナスの視線を自分の赤色の瞳に吸収するように深く睨みつけた。
「リミッターは外させねえ、なまえにはこれ以上手を出すな」




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