▼ ふたりでお迎え
とんでもないところに生まれてきてしまったなぁ。こんなにも美しく輝かしく、感情に溢れ、知識に富み、興味が尽きない世界に。この広く果ての見えない宇宙の中で、「ここ」に生まれ落ちたわたしの命、まだ光っていてくれ。夜が来ても消えることなく、どうか、その燃え上がるような生の情熱を明るく灯しつづけてくれ。
「また明日、わたし――」
そう呟いて、瞳を閉じる。
今日の朝のように、明日の朝も光が見えますように……――
「男の『愛』なんて、所詮続いても三ヶ月よ……」
「また別れたの?」
「なまえ、『また』なんて言わないでぇ……傷つくわよ」
「愛が三ヶ月しかもたないなら、世の、一年以上付き合ってるカップルは何で繋がって続いてるのよ、金?んなわけないでしょ」
「恋愛未経験者がズバズバ言うわね」
「わたしだってそのくらいはわかるわよー」
「そうねごめんね、それと所詮三ヶ月なのは『愛』じゃなくて『恋心』、そう、ぴったり」
学校帰り、教室から出てゆっくりと靴箱まで歩いていく、友人となまえ。部活動の大きなエナメルバッグを肩からさげた下級生とぶつかりそうになる。
「懐かしいわわたしたちにもあーいう季節があったのね」
エナメルバッグをさげた下級生を見て友人が言った。
「ほんの数か月前よ。それはそうと、ほんとに男の人の恋心は三ヶ月なの?」
「これはホント。ほとんどの男の人はバッと一気に恋心に燃え上がるけど、三ヶ月も経てば落ち着くの。落ち着くだけなんだけど、男の人は恋心がなくなったように感じて別れをきりだすことも、まぁまぁよくあるのよ」
「へぇ……」
「まぁなまえの場合はどうだかわからないけどね。さぁ、ほら!彼氏が校門のとこで待ってるよ!」
「えっ……うそ!なんで?っていうか付き合ってないしー!」
「さぁほら行った行った! わたしは別にイイ人探すからー!」
「何それー!!」
全然ゾンビマンの気配なんてしなかった。多分まわりに人がたくさんいるからだろう。そう、周りに人だかりができていた。どこかて見た光景だ、それもわりと最近。
群衆に近づくと、中から血の気のないゴツゴツした手がニュっと伸びてきた。
「わっ!」
そのままぐいっと強い力で引き寄せられる。数人にぶつかってしまって、すみません、と連呼しながらだった。
両手首をがしりと掴まれ、顔と顔が近づく。「キス?!キスするの?!」と声をあげる人もいるけどやめてよ、わたしファーストキスもまだなのに。こんなに大勢の前でキスしたくないわよ!
「よくわたしが近くにいるのわかりましたね、こんなに人に囲まれてちゃわからないでしょうに」
なまえは小声で言う。
「男の勘だ、本能。……まあ嘘だけど」
「何それ、子どもをからかうのもいい加減にしてくださいよ!」
「そっか、……お前はまだ子どもか!そうだったな、ははは」
「ところで今日は何の用があって学校まで来たんですか」
なまえは周りをぐるりと見回し、声をさらに小さくして言った。「家で待っていればよかったのに」
「そんな言い方……悲しいだろ。心配して迎えに来たんだ」
「なっ……」
こっちだって、そんな言い方されると、どきっとする……
「なんで心配で迎えに来たんですか?」
「そりゃお前、怪人が下校中に出没したら困るだろ」
「そんなこと……この前の一回だけ――」
「最近ここらで怪人が出没してるんだ。それもお前の下校の時間を狙うかのように、ちょうど今くらいの時間に。B級あたりが退治してるんだろうけど、それでもやはり危険なんでな。」
「なんで……?わたし、狙われてるの……?」
自分は怪人に狙われている?なんで?もしかするとこの学校の生徒にも危害が及ぶ可能性があるかもしれない?
放課後課外で頭が疲れているのもあるかもしれないが、頭が働かない。
「とりあえず、詳しい話は、帰りながら聞きます」
周りの人混みから抜け出し、歩道へ出る。
「わたし、怪人から恨みを買うようなことしてませんよ」
「わかってる。でもなんか理由があるんだろ……――」
目の前に『歓迎していない』影が立ちはだかっていた。
「こんなになまえの前に出没するだなんて、なぁ。なんだよ怪人、お前もなまえの迎えに来たのか?くそっ」
あんまり離れるなよ、なまえ
そう伝えると、ゾンビマンはコートから銃器を取り出した。
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