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▼ 一触即発な関係


「たこやき、いつ食べても美味しいですね〜〜」
「最近なまえはよくたこやき買ってくるな」
「なんか、たこやき屋さんの店員さんと仲良くなったんですよねー」
「へえ」
「仕事してない暇なときは勉強教えてくれるんですよ」
「ほう」
「学校での悩み事の相談も親身に答えてくれるし」

透明なプラスチックケースに入れられたたこやきをつつきながら、ゾンビマンは、まだこの時点では、
なまえが言ってる店員とは一人であり、たこやき屋でバイトしてる女子大学生なのだろうと思っていた。実際のところは、年齢不詳の元マッドサイエンティストとゴリラの二人なのであるが。




「こんにちはー、アマゴリさん、ジーナス博士」

もちろんなまえはジーナスの正体がゾンビマンを『不死身男』にした科学者だとは知らない。店先のゴリラが博士と呼んでるから、そう呼んでるだけだ。

「いらっしゃいなまえ、どれ、お茶を用意しようか」

若い見た目の割にはジジくさい中身のジーナスは博士と呼ぶにはぴったりだった。ちゃぶ台の上に湯呑を二つ置き、電気ポットで急須にお湯をいれる。

「博士の電気ポットは流行りのどの電気ケトルよりも早くお湯が沸きますよね、言葉通りに瞬間湯沸かし器!」
「お湯が沸くのを待つ時間なんて、もったいない」

博士はお湯が沸くのを待つ時間を別の作業をする時間にあてるという発想がないんだろうか、とアーマードゴリラは心の中で突っ込んだ。

「わたし、こんな形した電気ポット見たことないです」
その博士の電気ポットは普通の電気ポットよりも細長く、デザインもどことなくスタイリッシュだった。

「これはわたしがつくったんだよ」
ジーナスが鼻高々に言った。天才は生命科学だけでなく、あらゆる分野に対しても天才であるものだった。当然、工学系統にも強い。
「えー!博士、ほんとうに博士じゃないですか、すごーい!」
「まあ」
若い女性、特にピチピチの現役女子高生から褒められるのは満更でもない。調子に乗らないでいる方が無理だろう。男は何歳になっても褒められて、高い評価をされるために生きているようなものだ。誰からだって褒められただけで単純に嬉しいのだ。強調するが、女子高生ならなおさら。

「昔、これよりもっとすごいのを作っていたんだ。それこそこんなポットなんかよりもすごい機械だって造っていたし……そう、機械よりもすごいものを造っていた。人造生命体やクローン、そして、もう二度とつくれない最高傑作、不死……むぐっ!!」
「ふじ?」
「むー?!……っぱ、いきなり何をする!アーマードゴリラ!」
「博士、べらべら喋りすぎじゃないでしょうか、落ち着いてください」
アーマードゴリラが博士を口から手を離すと、「なまえちゃん、ちょいと耳をふさいでいておくれ」と言った。

素直に耳に手のひらを押しあてるなまえ。ついでに目もぎゅっと閉じてしまう。

「博士……こんな健気な女子高生に、かつてあった、実験施設――進化の家のこと、まさか話さないでしょうね」

「は、話さない」
「話したら、頭がおかしい人に認定されますよ。現実的に考えて、研究所で新しい生物を造っていたなんて、女子高生に話したら絶対に引かれます」
「アーマードゴリラ、お前という存在がそれを言うか」
「わたしはしがないたこやきの家職員です」

アーマードゴリラが、「なまえちゃん、もう耳をふさいでいるの外していいよ」と言っても、耳をふさいでいて聞こえないのか、なまえは耳をふさいで目を閉じているままだった。なので、アーマードゴリラがなまえの肩を叩くと、なまえはびくっとして顔から手を離した。


「アーマードゴリラは店番を再開してくれ。なまえ、今日は数学の日だったかな?」
「あっ、はいジーナス博士、三角関数の積分計算でわからないところがあったんですけど……」

ソースの香りが店頭から風に乗ってくる。その座敷には、互いを深く知らないまま成り立った、見た目に反して一触即発で歯車が回り出す関係が出来上がってしまっていた。




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