▼ 塩辛タルトはおつまみになれない
「うっ…」
ゾンビマンの眉間に皺が寄る。いつもと様子が違う。
わたしが作ったケーキ(この日に作ったのはかぼちゃのプリンタルト)を食べた途端にこのような反応をされたのだ。
うそ、もしかしてゾンビマン、かぼちゃ嫌いだった?
しかし嫌いな食べ物を食べたときの反応とは明らかに違う。飲み込むのをためらうように長い時間口を動かしていたし、飲み込んだように見えたあとも、まるで理解できないといった表情をゾンビマンは浮かべていた。
「なまえ……お前……」
そこでわたしはタルトに何か問題があるのだと気づいた。
「ちょっと貸して!」
自分が作ったもんだから貸したも何もないのかもしれないが。
勢いよくゾンビマンの目の前にあったタルトの乗った皿を奪い、そこで一旦先程のゾンビマンの様子を思い出した。よっぽど不味かったのだろう。食べるのを躊躇ったが、自分で確認しないといけない。こういうことは他人からは言いにくいものだ。作った本人が調べないと。
意を決して、タルトにフォークを入れた。
「やめろ!なまえ、お前はこれ食べんな!」
「…塩辛ーい!!」
上に乗せたかぼちゃプリンが塩辛いのだ。砂糖と間違えて塩を入れたのだろう。砂糖はプリンを作る前に切らしていることに気付いて慌てて買ってきたものだった。ケースにも入れず、どーせたくさん使うから、と袋に入れたまま使った。
なんてことをしてしまったんだ。
「ごめんねゾンビマン、もう食べなくていいよ。」
わたしから皿を取り返し、タルトを食べる彼に言った。
そんな、不味いもの無理して食べなくていいから。
「いい。」
「でも体に悪いし、塩分摂りすぎて血圧上がっちゃう。」
「そんなの俺は知らねぇな。」
「食塩、つまりは塩化ナトリウムのナトリウムの吸水性によって血液中の水分が減り、血管内の血液を押し出す圧力が高くなるかもしれないんだよ!」
「別にそんな詳しく言ってほしかったわけじゃねぇよ!うるせぇ!」
「でもゾンビマンが死んじゃうのはやだ!」
「俺は死なねぇよばか。」
そこまで言うとゾンビマンは「なんでこんな古典的な失敗をやらかすんだ……」とブツブツ言いながらもフォークを動かしていた。
「ほんとに、無理して食べなくてもいいのに……」
正直、泣きそうだった。おいしくないもの食べさせてしまったという、強い後悔がわたしへ押し寄せる。
「目の前でなまえがせっかく作った料理を捨てられると気分悪くなるからな。それよりか俺が食べたほうがいい。」
味じゃなくて、なまえが作ったっていうことが重要なんだよわかったか、いや、まぁ、そりゃ味が大切じゃないって言ったら嘘になるけど、ここで言いたいのはそういうことじゃない!お前が作ったってことが大事なの!はい終わり!恥ずかしいからもう言わねぇ!
と、そんなたくさんのことを捲したてて言われて、わたしはぽかんという状態になってしまった。そんな風に言われても、こっちの返事が困るではないか。
勢いに引いてしまったから、というのもあるけれど、このゾンビマンなかなか嬉しいことを言ってくれたようだったから。
ソンビマンはごちそうさま、とフォークを皿の上に置き、塩味を消しさりたさそうに水をがぶがぶと飲んでいた。
そして不意にゾンビマンに抱きしめられて、
「塩のせいで血圧上がって心臓バクバク言ってんじゃねぇか、ほら聞いてみろ」
と言われた。確かにいつもよりかは脈拍はやいかも。 トットットッ……音がする。
「ゾンビマンエンジンと名付けよう。」
「なまえお前何言ってんの」
もうひとつ、後で食べようと残していたタルトが冷蔵庫に残っているなんてわたしには言えなかった。
2013/04/25 夕飯にアレンジして創作リゾット。
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