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▼ 君の隣がほしい


その横顔に、見惚れてしまった。



中学校の生徒会なんて、生徒会といっても活動できる範囲はかなり限られているし、もちろん、教師の許可なく無断に大きな活動をしてはいけない。(勝手な活動をするならばそれこそ教師にバレないようにしなければならない。)
中学校の生徒会なんて、行事の計画云々のように生徒だけで判断できることは非常に少なく、ほとんど教師から委託される活動を実行する。その大半は『雑用』だ。
今日も、その『雑用』として、クラスに一冊ずつ配布される、運動会までの予定に関するしおりを作らされていた。こういうのは普段は流れ作業で、誰かがプリントをノンブルを見て順番通りにまとめ、また別の誰かがホチキスで三ヶ所固定する。端、真ん中、端。

生徒会長、副会長は、先生に用事がある、と言って、来てすぐこの仕事をそこにいた僕一人に預けて生徒会室から出ていってしまった。後からやってきたのは、二個上の先輩だった。

「あれ、影山くん一人?」
「ええ……会長と副会長は用事があると言って出ていきました」
「そっか。ねえ、それ仕事?」
先輩が紙束を指さす。
「はい、頼まれました」
「手伝おうか」
「いや、僕が頼まれた仕事ですし、手伝わなくていいですよ」
「手伝わせて。目の前に座ってぼーっと作業見ててもおもしろくないし、それに、二人でやった方がすぐに終わるよ」

結果、なまえ先輩に圧されて、二人で作業をすることになった。


紙の擦れる音、ホチキスのガシャコン、ガシャコンという音が機械的に生徒会室に響く。二人の間に特に目立った会話はない。隣で紙を並べる先輩は黙々と、作業に集中しているようだった。自分から話しかけようとは思わなかった。

自分が知る限り、この先輩は、あまり人にむやみに話しかけないというか、物静かではあるが、決して根暗ではない。彼女は凛としている。何かに集中してたり、仕事をこなしているときはなおさら凛々しい。

副会長と少し、ほんの少し似た雰囲気も感じる気がするが、それは彼の厳しい雰囲気とは違う。女性的で、ときどきピンと張った雰囲気が緩んで、ふわりと笑うのが可愛い。不意に、顔が見たくなって、横に顔を向ける。

「(うわっ……)」


その横顔は綺麗だった。顎の耳にかけてのラインはすっきりとしてて、肌は絹のようだった。無駄にテカってなく、透き通るように白い。――美しい!

作業をする手は止まってしまっていたようで。ホチキスの音が聞こえなくなったのを不思議に思ったのか、先輩は顔を少しあげた。先輩と目が合う。時が止まった。


先輩はどうしていいかわからないのか、困った顔をして、ちょっと微笑んだ。「どうしたの影山くん、ホチキス芯なくなった?」

「いや……なくなってないです。何もありません、すみません」


芯がなくなってしまったのはむしろ僕の方だ。


ずっと見てると流石にまずいと思い、慌てて目線をそらす。手汗がひどい。段々と心拍数が上がってきて、ああー、と心の中でため息がちに声を漏らす。



「影山、俺と代われ。疲れたんなら休んでていい」
「あ、徳川くんおかえりなさい」
「……おかえりなさい」

すたすたと近づいてくる徳川副会長。この二人の間にできていた雰囲気にとっては邪魔虫のように思える。なまえ先輩から引き剥がされて、遠くの隅の椅子に座らせられる。さっきまで、自分の隣りにいたなまえ先輩は今は副会長の隣にいる。



「(なまえ先輩、待っててください。すぐ追いつきますから、あなたの隣へ)」



「(影山にはなまえを渡さない、絶対に)」





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