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▼ 策士的ヒーロー

学校帰り、放課後にショッピングモールで友達と遊んだついでにフードコートで駄弁ることになった。

「ここ空いてるよ〜〜!」
出入口に近い席をキープした。

ついさっき撮ったプリクラを切り分けながらわたしは友人たちの話に耳を傾ける。

女子が二人以上集まればだいたい話題は決まってくる。

恋愛話、つまりはいわゆる恋バナ。

私以外全員彼氏持ち(なんでそんな彼女たちと友達でいれるのかよくわからないけど、おそらく女子の友情にオトコは関係ないのだろう)なので、必然的に付き合ってる前提の話になっていく。


わたしには関係ない話。相槌はうつけど自分から話すことは何もない。


わん、つー、さん、しー、と切り取ったプリクラの配分を考えながら指で滑らせ分けていく。

「ねー、なまえは好きな人いないのー?」
「そーよなまえ、なまえだって恋の一つや二つ、したことあるんでしょ?恋愛できない体質とかじゃないんだよねー。」
「んえっ」

バッと顔を上げる。動揺して変な声が出てしまった。
友人みんながわたしを見つめてくる。急に恥ずかしくなって慌てて顔を下げる。

「い、い、い……いないよ?」
「ははーん、いるんだなぁ?教えてくれたっていいじゃないかーー、なまえちゃん?」

隣の席の子はコノコノォ〜〜とか茶化しながらわたしのほっぺたをつついてくる。依然として顔を上げないわたし。

だって、みんな付き合ってる人がいるのにわたしだけいないとか、惨めというか、なんだか恥ずかしいし悲しいじゃないか……


「じゃあさー、なまえの好きなタイプでいいから教えてよー。」

みんなが「ききたーい!」とスタジオの観客席の人達みたいに一斉に言う。

しかたないなぁ……せっかくの女子の集まりだ、言ってやろうでないの。

でも恥ずかしいから下向いたままね!
なんて失礼な話し方だろう、わたし。


「んーとね、まず第一条件はこの街にやってくる怪物から体を張ってわたしを助けてくれること!」
「なまえ……それは現実味なさすぎるわ、今どきそんな王子様やヒーローみたいな人がいるわけないって〜〜!」

ギャハハ、と笑い声が聴こえる。構わん、わたしは続ける。

「あとは何があってもわたしの目の前に戻ってきてくれる人。」
「いったいどうしたなまえの好きな人は戦場にでも向かうのか。」

自衛隊?とか真顔で聞いてこられた。

「ちがう。今この世の中いつ怪人が襲ってくるかわからないじゃんか、怖いじゃん。相手も無事でいてほしいよ」


「ロマンチックだな〜〜、んで、好きな人は?その理想に見合う人は?いるんでしょ?」

な、なんだもしや誘導された?!
もしここでいないと言ったら「やっぱりそんな人実際いないよ〜〜」とか言われて、わたしはただの夢見る乙女扱いされてしまうのか?

「い、いるよぉ!!」

わたしは勢いよく顔を上げた。
うわー!!めっちゃ顔熱い!




あ。


目線の先に見知った後ろ姿が。
口をぽかんと開けたまま硬直したわたしを不思議に思ってか、友人たちはわたしの目線を辿る。

「もしかしてあれって……」
「S級ヒーローの……」
「ゾンビマン?!」

友人たちがきゃあきゃあ言い出した。なんだよ君達アマイマスク推しだったじゃないか。

「ん?もしかしてなまえ、この前ゾンビマンと一緒にいなかった?」
「えっなにそれどーゆー関係?気になる〜〜!」
「へ、へへ…ただの知り合いだよ。」

偶然に偶然が重なって知り合いになっただけなのだ。それ以上の関係を持っているはずはもちろんなく。

「さては……なまえ、ゾンビマンが好きなんだろー?」
「?!」
「図星か!!」
「声がでかい!!別にそんなんじゃないしー!」

小声で叫ぶわたし。向こうでは相手は席について何か食べているようだ。こちらの会話は聞こえてないだろう。それを願う。ただただ願う。


「ほらなまえ〜〜行っておいで!!」
友人たちから無理やり立たされ、背中を押される。

ええー……なんだか急過ぎて心の準備とかできてないんだけど。


暫し迷った挙句、しかたない、行くか、と、バッグから財布を取り出し、座っていた席の近くのファストフード店で百円のアイスを買う。何も持たずに行ったら何だか変な人扱いされてしまいそうで。




「ゾンビマンさん」

「ああ、なまえじゃねぇか。座れよ。」

「お向かい失礼します。」

「おう」

それにしてもこのゾンビマンさん、いい食べっぷりだ。ハンバーガーいくつあるのこれ。普通の人は一個じゃない?

アイスクリームを食べながら、ガツガツと食べるゾンビマンさんをぼーっと見つめる。


「おい、それ俺にも一口くれ」

「へ?」

「食べるの遅いから溶けかけてんぞ」

がっ、とわたしの手の甲ごとコーンを掴んでゾンビマンさんは顔の前に持っていき、そのままアイスを食べた。


「あの、ゾンビマンさん…」

「ん?」

「食べ過ぎ!」

「悪い、すまなかった」

パッと手を離し、わたしの左手の自由は開放された。

これってお互い間接キスじゃん……

どぎまぎしながら自分の元にかえってきたアイスを再び食べる。


「なまえ〜〜バッグここに置いとくね〜〜!」
いつの間にか後ろに友人がいて、元の席に置きっぱなしだったわたしのバッグを足元に置いていった。

「ごゆっくりー!」とか言いながら女子の集団が帰ってゆく。


あ い つ ら〜〜!!

「なんだお前ぼっち飯しにきたんじゃなかったのな」

「違いますよ!」

「しかし薄情な友人たちだなお前を置いて帰るなんて」

「そんな薄情なんかじゃないです!」


むしろわたしのために先に帰ってくれたのだろうけどそんなこと言えるはずなく、わたしはただ口をパクパクさせることしかできなかった。








「帰るか。」

気がついたらゾンビマンさんはハンバーガーも全部食べ終わっていた。早い。

窓から外を見るとだいぶ空が暗くなっていた

「送る、暗いし」

「えっ」

「アイスの御礼」

「いやでもそんな、わるいですよ……」

「俺はヒーローだからな、市民の平和と無事を守るためにいるんだ。」


椅子にふんぞり返って言われた。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」


食べたあとの包み紙のゴミを捨てて外に出た。








帰り道、ゾンビマンさんは歩くのが速かった。

「俺はお前の目の前から急にいなくなったりしないから」


という、最近どこかで聞いたような言葉か耳にこびりついた。




メールの着信音が鳴る。誰かと思ってみてみるとメールはさっき一緒にフードコートにいた友人からで

『やっほー!!さっき言いそびれたけど、なまえが好きなタイプの話してるときゾンビマンわたしたちの席の近くのファストフードの店に並んでたからもしかしたらなまえの話聞こえてたかもね!!(*゚▽゚*)』


と書いてあった。

「ゾンビマンさん、もしかしてわたしの好きなタイプ〜〜みたいな話聞いてました?」

「耳には入ってきてた。」

「ど、どこらへんから」

変な汗が流れてきた。

「第一条件から」

ほとんど最初から全部じゃないですか!


策士だったか、くそう!恥ずかしい!







2013/04/20

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