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▼ ファミレス連行

目の前の男の一言で、一旦周りは静まり返ったが、皆が事を理解したかのように、歓声はさらに大きく沸き起こった。待ってよ、わたしは全く理解できていない。
横にいた友人も、「え?うそ、なまえ知り合いだったの?」となまえの後ろの陰に隠れる。近づいてくる男に対し動揺により耳の後ろに電流のような緊張が走り抜けた。こんな風に目立ちたいわけじゃない。こんなシチュエーションで目立ってしまったら悪い噂が流れそうでびくびくしていた。周りの好奇の視線が酷く気分が悪かった。ただの悪い夢であってほしい。視線はそらせなかった。目の先には一人の男が貼りついていた。

「よ、久しぶりだな」
「もしかしてわたしに用事なんですか……」
「あんた以外に誰がいるってんだ?」

口の片端をくい、と上げて、笑う男の目は笑っているようには見えない。何か意味があるのか、それともただ単に笑顔を作るのが下手なのか。このS級ヒーロー、ゾンビマンは。
あーあー、嫌だわ、なんでこのタイミングなのかしら。なんで人がたくさんいるところなのかしら。「で、用件ってなんですか」さっさと言ってください、と心の中で付け加える。

「ここは人が多過ぎるだろ」
さらりと言う血色の悪いヒーロー。そうよ!人が多過ぎるから困ってるんでしょーが!!あんたのせいで!
「だから」「えっ?!」
急に手が伸びてきて、なまえの手をとった。「人が少ないところに行くぞ」

わけがわからない。なにがどうなってこうなってるんだ。周りで羨ましいだのなんだの歓声が上がっているが、当事者にとっちゃそんなに笑えたことでもない。理由もわからず、大してよく知らない人に連れ去られそうになっている。そうだ、友人に助けを求めよう。たこ焼きを食べに行く約束をしていたはず。友人にヘルプを求めて視線を送る。
「うわー……わたしジェノスファンだけどなまえのこと羨ましいと思うわー……」
ちっくしょおおおお!!
助ける気ゼロなのね!?
泣く泣く連れて行かれるなまえ。ちょっと、写メ撮るのやめてください、この学校校内携帯持ち込み禁止のはずよ。


「いらっしゃいませー、二名様ですか?」
連れて行かれた場所はファミレス。女性の若い店員さんが出迎えてくれた。

「お煙草はお吸いになられますか?」
「ああ、喫煙せ……」
「禁煙席でお願いします」
「かしこまりましたー」
まだ肺は黒くしたくない。目の前でスパスパ煙草吸われてたまるもんか。ゾンビマンはなまえをじとっと恨めしそうな目で睨む。負けじと睨み返すなまえ。
「なんですか、喫煙席なんかに座ってわたしの死期を早めようっていうんですか」
「そんなんじゃねぇよ」

案内された禁煙席で、向かい合わせにソファに座る。互いに、一人では広すぎるスペースなので、なまえは横に荷物を置いた。なんで連れてこられたかはわからないけど、ファミレスに来たなら何か注文しなければ。立てかけてある二個のメニューをさっ、と取り、一つを自分の目の前に、もう一つをゾンビマンの目の前に置く。「どうぞ」「ありがとう」
「これって――」なまえはパラパラとメニューを捲りながら、ちらりとゾンビマンを見る。「――もちろ……もしかしてゾンビマンさんの奢りですよね」
「なんでもしかしてって言っておきながら断定なんだよ、もちろんって言おうとしたの聞こえてっぞ」
「へへ」
「……いいぜ、好きなの選べ」
そうこなくっちゃ。学校で大勢の前であんな目に合わせてくれたんだから、それなりに償ってもらわないと。あれはあれでとても恥ずかしかったのだ。

なまえはデザートメニューの中で一番値段が高いパフェを頼んだ。







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