▼ 不死への執着心
なまえがシャワーを浴びて部屋に戻ると、ゾンビマンはアルバムを真っ直ぐな瞳で眺めていた。
そんなに赤の他人が見ておもしろいものでもないのに。
「ただいま戻りました……。」
あまりに真剣に読んでいるから、控えめに風呂上がりを報告。
わたしにはゾンビマンさんに聞きたいことがたくさんあるのだ。
なまえはゾンビマンの目の前に座り、テーブル越しに身を乗り出して問う。
「あのですね、ゾンビマンさん。わたし、あなたに訊きたいことがたくさんあるんです。もしよかったら質問に答えてくれませんか。」
「答えられることならいいぜ。」
存外あっさり許可を得ることができた。ゾンビマンはアルバムから目を離さない。
「単刀直入に訊くわ。あなたはいったいどこで、その死なない体を手に入れたの?」
ゾンビマンの片眉がぴくりと動く。
「『手に入れた』?違うな、この体は一方的に押し付けられたんだ、有無も言わさず、俺が気づいたときには既に、な。」
「じゃあどこで誰に?」
「『進化の家』という組織の実験施設で、ジーナスという科学者によってだ。」
「そんな漫画みたいな話あるわけ」
「現におまえの言う漫画みたいに不死身なやつが目の前にいるじゃねぇか。」
「……。」
世の中には生まれつきに超能力を持つ者もいるとは聞いていたから、最初は不死の身体も生まれつきに手に入れたのかと思っていた。でもそれじゃあ目的は達成できない。生まれつき、なんて答えられたら不死の身体になれないことはわかりきっている。だから少しの期待も込めて、『どこで』手に入れたのかきいてみたのだ。
「わたしも不死の身体を手に入れたいの。その、ジーナスという人に会ったら不死身にしてもらえるかしら。」
ゾンビマンはアルバムからゆっくりと顔を上げた。
「たぶん無理だぜ。博士は俺のことを不死身シリーズ唯一の成功作と言っていた。それにジーナスはもう実験施設も科学者という立場も捨ててしまったからな。」
「そんな……。」
望みは絶たれた?
「でもなんでそんなこと訊くんだ、ヒーローや怪人にでもなるつもりか。」
「違うの、違うんです。」
なまえは肘をテーブルにつき、両手で頭を抱えて声を絞り出した。
「死にたくないの。」
単純な気持ちと、複雑な理由をその言葉は纏っていた。
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