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▼ お徳用三枚千円


顔がモブすぎて思い出せなかったヒーロー、ようやく名前と顔が一致した。

S級ヒーロー『ゾンビマン』、彼は死なない体を持つ男。

噂を聞いても半信半疑だった。不死身だなんて、ありえない。そんな人間、この生命科学技術が発達したこの世界でも見たことない。もしわたしの知らないところで、その技術が発達してるのであれば是非ともその恩恵を受けたいぐらいだ。死なない体をつくるなんて、医学界での倫理問題とかでは許されてないのかもしれないけど、そんなこと、わたしにとってはどうでもいい。死にたくないのだ、この自我という意識を手放したくない。失うことがこわい。無も感知できない無に取り込まれてしまう恐怖。それは期限ある命をもつものには必ず訪れるもの、皮肉なことに、唯一人類が皆平等に与えられているものだ。


それなのに、この人はなぜ。

目の前で見てしまったのだ、彼の不死身をほのめかす出来事を。噂のとおり、彼の体はすぐに回復する。

なぜ、なぜその体を手に入れることができたの?



「実はわたし、このスライムみたいなのの前に、別の怪人に遭遇したんですよ。」

「おまえの家はどこだ、送っていくぞ。途中でまた怪人にあったら大変だろう。」

「ああ、えーと、じゃあお言葉に甘えて……。」


ちょうどいい、このままこの人から不死身の秘密を聞きだそう。

肩貸すぞ、ゾンビマンはそう言って屈んだ。
なまえは鼻血が止まっていることに気が付いて、自分で歩けるのでいい、と断った。






ここから家はそう遠くはない。ジョギングコースなんてだいたい近所である。
普通のアパートの一室、一人暮らし十分な広さ。


「一人暮らししてんのか、まだ若いのに。大学生じゃないだろ?」


化粧してないし……となまえの顔を眺めるゾンビマン。

「わたしの通う高校、自宅じゃ通学可能区外になっちゃうので下宿とかしなきゃなんです。ただ下宿だと下宿先の人に気を遣わなくちゃいけないでしょ、それが嫌だったんです。一年生のとき一年間下宿してたけど引っ越してここに。」


県下トップ進学校に通うために自宅から通わずに部屋を借りるものは多い。進学校といっても、特殊な教育をしてるわけでもなく、全国区で有名であるわけではない、地味なただの公立高校である。県下一、有名国公立大学への合格者数が多いというだけだ。他の都道府県にもあるだろう。そして他の都道府県でもなまえのように自宅から離れた進学校に通う人も少なくないだろう。

「あっちょっと止まってください、玄関の方向いててください。」


慌てて部屋の中に干してあった下着をクローゼットにしまう。


「別にそんなの気を遣わなくていいのに。」


「いったい何真顔で言ってるんですか!向こう向いててって言ったじゃないですか!」

「部屋干ししてると臭くなるぞ。」


「部屋干し用洗剤というものをご存知ですかあなたは。外に下着を干すなんて危険なんですよ、女子高生にとっては。おなごが一人暮らししてますって堂々言ってるようなものじゃないですか。」

「なるほど。」

「ちょっとそこに座っててください。お茶かなんか出します。」

「いいから、お茶よりも風呂貸してくれ。」

「えっ」

何を言っているのだこの人は、いきなり風呂に入り事に及ぼうとしているのか。

「何驚いてんだよ……いやそういうんじゃねぇよ、お前が考えてるような展開じゃねぇから!こんな乾燥した血だらけで座るのは抵抗あるし。第一、子どもには興味ねぇよ。」


なんだ、わたしの早とちりか。友達のあんな話やこんな話と重ねてしまった。しかし最後の言葉、胸に刺さるぞ。

「どうぞどうぞ、バスタオルここにあるんで。」

なまえは先ほどの失態を恥ずかしがりながら、目をそらしてタオルを差し出す。

「サンキュー。」

タオルを受け取るゾンビマン。

バタン、と扉をしめて、しばらくすると「あーあ」と声が聞こえて、ゾンビマンが扉から顔だけ出して「すまねぇが、下着買ってきてくれねぇか」と言ってきた。

「わたしのならありますよ。」

「ガチで履くぞ。」

「すいません、買ってきますね。」


コンビニに売ってあるかな、スーパーの方が安そうな気がする、とか考えながら台所で乾燥した鼻血をとるためになまえは顔を洗った。





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